公的年金の2020年度の支給額が、今年度より0・2%増えることが決まった。物価や賃金が上がったためで、増額は2年連続。ただ、少子高齢化にあわせて年金の水準を下げる「マクロ経済スライド」も2年連続で実施され、伸び率は抑えられるため、年金の実質的な価値は目減りする。
厚生労働省が24日、20年度の年金支給額を発表した。国民年金は、満額で月6万5141円となり、19年度より133円増える。厚生年金は、平均的な収入で40年働いた夫と専業主婦のモデル世帯の場合で月22万724円(夫婦2人分)となり、458円増える。
年金額は、物価や賃金の動きに応じて年度ごとに見直す。マクロ経済スライドは、物価や賃金が上がっても、その伸び率より年金の伸び率を抑える仕組み。そのため支給額が増えても、物価や賃金に照らした水準は下がる。(山本恭介)
「マクロ経済スライド」発動、16年で3回
物価や賃金の上昇を背景に、公的年金の支給額が2年連続で増えることになった。年金財政の改善のため支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」も2年連続で実施されるが、導入から16年で3回目の発動にとどまる。いまの受給世代の年金水準の目減りを伴うが、低下が見込まれる将来世代の年金水準を底上げするには、今後も着実に発動が進むかが焦点になる。
総務省が24日発表した昨年の消費者物価指数(生鮮食品を含む)は、0・5%上昇した。また厚生労働省は最近数年のデータから、今回は賃金変動率をプラス0・3%と計算。改定時のルールに基づき、低い方の賃金上昇率を年金額改定のベースとした。
ここから、平均余命の伸びなどに応じて自動的に抑制水準が決まる「マクロ経済スライド」の仕組みで0・1%分を差し引き、年金支給額は0・2%増にとどめた。そのため、物価や賃金の伸びほどは年金額が伸びないことになり、実質的な価値は目減りする。
日本の年金制度は、現役世代が納めた保険料を、その時の高齢者の年金にあてる仕組みだ。少子高齢化で現役の負担が増え続けるのを防ぐため、2004年にマクロ経済スライドを導入。保険料収入や過去からの積立金、税金投入の範囲で将来も安定的に支給できるようになるまで、年金水準を下げることになった。
ただ、マクロ経済スライドは物価などの伸びより年金の伸びを抑える仕組みのため、デフレ下では実施できず、思うように発動は進んでこなかった。04年度の導入時には、マクロ経済スライドは23年度までに終了する想定だったが、初めて発動されたのは15年度だ。
昨年8月に公表された最新の年金財政検証では、マクロ経済スライドが終わるのは、代表的な経済ケースで47年度。夫婦2人のモデル世帯が受け取る公的年金の合計額は、19年度は現役世代の平均収入の61・7%だが、47年度は50・8%に下がる。今後も物価や賃金が上がり、着実に発動が続かなければ、スライドの終了時期や年金財政の改善は遅れ、将来の年金水準は想定より下がることになる。
それにより、特に影響を受けるのが国民年金の受給者だ。財政検証では、47年度の年金水準の低下度合いは厚生年金が約2割だが、国民年金は約3割も下がるとされた。厚労省は今後、水準低下の緩和策の検討を進める予定だ。(山本恭介)