[ソウル 27日 ロイター] – 北朝鮮は米国に対して一方的に非核化交渉期限を2019年末までと設定していたものの、結局は何事もなく新年を迎えた。ただ、北朝鮮の国営メディアの報道や当局による各種の政治宣伝は、米国との対立が長期化することに焦点を当てる内容となっている。 

金正恩・朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領の2年にわたる首脳外交で米朝関係が新たな局面に入り、何十年も貧困にあえいできた北朝鮮が経済的に発展するとの期待は、もはや消え失せたように見える。 

むしろ北朝鮮政府はここ数週間、国営メディアや政治ポスターなどを通じて、この先は米国や国際社会の圧力による険しい道が待っている、と国民に強く警鐘を鳴らす。「障害を突破せよ」とメッセージを発し、国力強化に協力せよと求めている。 

旧正月に行われた一連の祝賀行事の中には、金正恩氏など指導部のために開かれたコンサートもあった。そこで打ち出された、敵に勝利する指導部を賞賛するというメッセージは、国民にとっておなじみだ。 

だが、今回はその指導部が、外交面で早期の事態打開を想定していないとの見方をはっきりさせたのが特徴だ。 

ジョージ・メーソン大学コリアのアンドレー・アブラハミアン客員研究員は「米国の敵対的政策と制裁のせいで、予見可能な将来において、より厳しい状況になるというメッセージだ」と解説する。 

北朝鮮の外交官との非公式会合に定期的に参加している欧州のある研究者は、北朝鮮政府は水面下では引き続き、切実に必要な制裁解除を模索していると述べた。 

しかし、表向き北朝鮮は米国が非核化交渉の期限までに柔軟な態度を示さず「乱暴で非人道的な」制裁を続けていることをなじり、もはや核・ミサイル開発に関して過去に表明した約束には縛られないと言い切っている。 

<軌道修正> 

2011年に政権を掌握して以来、国民の生活水準を着実に向上させてきた金正恩氏は2018年、核開発プログラムの「完了」により、政府は経済発展に注力できるとまで宣言した。ところが、制裁解除にこぎ着けられないため、同氏の立場は微妙になっている。 

アブラハミアン氏は、金正恩氏の下で経済が改善すると期待してきた北朝鮮国民にとって、足元が懸念すべき局面になっているのは間違いないと述べた。 

専門家の分析では、こうした中で最近発せられているメッセージは、金正恩氏が2019年末に行った演説を補強する格好となっている。同氏は国民に「困難かつ長い闘争」に備え、制裁解除の時期が遠のいたので、自立的な経済を育て上げろと訴えた。 

さらに同氏は、この演説を「軌道修正」の機会に利用した。かつて北朝鮮はもう「ベルトを締める(窮乏する)」ことはないと明言したが、しばらくはベルトを締めなければならないかもしれないと認める機会にしたからだ。 

それでも北朝鮮情報の独立系専門サイト、NKニュースのアナリスト、レイチェル・ミンヨン・リー氏によると、国営メディアなどは金正恩氏の以前の約束があるために、あまり大々的に先行きの苦難を伝えていない。リー氏は「論議を呼ぶ言い回しであるため、北朝鮮当局は極めて注意深く、国民に浸透させようとする公算が大きい」とみている。 

北朝鮮の複数の高官は、米国に非核化交渉期限は2019年末だと通告した際に、譲歩しなければ「新たな道」を選ぶと警告。その後、金正恩氏が、世界は近く「新たな戦略兵器」を目にすると発言していた。 

そして、特に波乱が起きないまま年を越え、北朝鮮の国営メディアは米国との交渉に関して不気味な沈黙を守っている。リー氏は「彼らは時間を稼ぎ、対米を含めた外交政策に何らかの修正を加えようとしているのではないか。『新たな戦略兵器』の公表が近づくとともに、自分たちの意図をより明確にさせるのかもしれない」と話した。