松浦祐子、阿部彰芳、北林晃治 菊地直己、矢島大輔、三上元
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議を終え、会見する尾身茂副座長。右は脇田隆字・国立感染症研究所長=2020年3月19日午後10時51分、東京都千代田区、北村玲奈撮影
政府の専門家会議が19日、新型コロナウイルス対策を検討する会議を開き、新たな見解を示した。欧州のように感染が爆発的に拡大する可能性を指摘し、大規模イベントは引き続き自粛するよう求めた。見解をふまえ、政府は近く新たな対策を示す。安倍晋三首相の要請で始まったスポーツ・文化イベントの自粛や、学校の一斉休校はいつまで続くのか。
患者の爆発的な増加を防ぐには、クラスターを早く見つけて濃厚接触者を突き止め、新たな感染を止める調査が必要だ。世界保健機関(WHO)も、クラスターが生じた国にこうした調査の強化を求める。WHO・中国の共同調査団の報告書によると、中国・武漢だけでも専門家が加わる1800以上のチームが接触者の調査にあたった。
だが、日本国内の態勢は不備が目立つ。厚生労働省は先月、クラスター対策班を組織したが、専門家会議は「対策を指揮できる専門家が少ない」と指摘。調査を担う各地の保健所では通常の業務に加えて、感染が疑われる人の電話対応や、感染拡大に備えた医療機関の受け入れ態勢の整備にも追われる。「クラスター対策に人員を割けない」とし、人材確保や保健所への予算投入などを国に要望した。
WHOの報告によると、感染者が爆発的に増えたイタリアでは、3月1日時点の感染者は1128人。その2週間後に2万人を突破し、死者は50倍に。18日時点で感染者は3万1千人、死者2500人を超え、医療崩壊が指摘されている。
新型コロナの感染から発症まで平均5日ほどで、1週間ほどはかぜの症状が続く。国内では、感染者の濃厚接触者だとわからなければ、入院が必要な肺炎が生じるまで通常は検査対象にならず、感染が起きてから自治体が感染者を把握するまでに2週間ほどかかる。
このため、専門家会議は気づかないまま感染が広がり、ある日突然、爆発的に患者が増えて短期間で深刻な事態に陥る恐れがあるとした。そうなれば、欧州のように強制的な外出禁止や店舗閉鎖といった「ロックダウン」という強力な措置もとらざるを得なくなると警告した。
クラスターが小さいうちに見つけ対処すれば、封じ込めも可能とされるが、ウイルスはすでに世界中に広がっており、国内に新たに持ち込まれる可能性が常につきまとう。対応は長期化する見通しだ。(松浦祐子、阿部彰芳、北林晃治)
北海道の対策「一定効果あった」
3月上旬の国内の感染状況について、専門家会議は「持ちこたえているものの一部の地域で感染の拡大がある」との見方だ。会見した西浦博・北海道大教授は、閉鎖空間で接触を避けるなどの努力で「感染を減らせるかもしれない希望の光が見えた気がする」と力を込めた。「ここでせきを切って接触するのは考え直していただきたい」
感染拡大を抑えているシンガポールに対し、イタリアなどでは患者が急増。日本はその間に位置する。イタリアのようにならないための対策として、専門家会議が評価するのが北海道の取り組みだ。2月中旬に急速に感染拡大が進み、28日に鈴木直道知事が緊急事態を宣言。週末の外出自粛要請などの対策を講じた。その結果、新規感染者の増加を抑えられており、迅速な対策は「一定の効果があった」と認定した。
感染拡大の有無をみる指標の一つが「実効再生産数」の変化だ。感染症が流行している集団で感染者1人が何人に感染させるかを示す。1より大きければ流行は拡大し、小さくなれば収束していく。北海道では宣言前は1程度で推移していたが、宣言後は1を下回る日が増えている。1日あたりの新たな患者数も直近は数人にとどまる。
一方、都市部を中心に流行がじわじわと拡大している。3月10日以降、新規感染者の報告数が全国で50人を超える日があったほか、高齢者福祉施設で集団感染も起こっている。特に懸念されるのが、東京や大阪といった都市部での感染源が特定できない患者の散発的な増加だ。感染に気づかない人たちによる患者集団「クラスター」が次々と発生しかねない。
専門家会議は、大規模イベントがクラスターの原因になると懸念する。見解では、開催する場合は①密閉空間での密集、密接を避ける②集まる場の前後も含めた感染予防対策③感染発生時には参加者への連絡や行政への協力という対策を求め、対応できないなら中止や延期が必要だとした。
西浦さんは「今、大規模イベントを開催してメガ(大規模)クラスターができてしまうと、一瞬にして今までの努力が水泡に帰すと思っている」と話す。一方、「開催できるものは開催すればいいという意見もあった」とし、専門家間で意見が分かれたことも認めた。
学校再開、来週中にも判断
一斉休校など政府の今後の対応について、安倍晋三首相は19日の参院総務委員会で「専門家の見解を頂きながら、我々も判断していきたい」と語った。休校の要請などをめぐっては、首相が「政治判断」で決めたことが批判を呼んだ。政府は専門家会議の見解に沿って対応を検討し、首相が近く新型コロナウイルス感染症対策本部で表明する見通しだ。
専門家会議では、全国から不特定多数の人が集まる大規模イベントについては、開催が可能な規模や地域の基準を設けられるような科学的根拠がないとして、開催する場合は引き続き慎重な対応を求めた。主催者や参加者向けの注意点をまとめたチェックリストを示し、判断の目安にするよう促した。
全国一斉の臨時休校については効果を科学的に測ることが困難との立場だ。密閉空間を避けるといった対策をとりつつ再開し、流行が拡大している地域では「学校を休校にすることも一つの選択肢」としている。
16日朝の時点で、全国の公立小中高など約99%の学校が臨時休校を続けている。子どもの学習の遅れやストレス、保護者の負担などが懸念されている中、萩生田光一文部科学相は19日の記者会見で、「できる限り(4月の)新学期から学校が再開されることを考えている」と発言。専門家会議の報告内容を分析した上で、来週中にも学校再開の考え方を示す。
ただ、全国一律の基準を作るのは難しいとみられる。萩生田氏も「地域ごとに様々な考えを示すことになると思う」と語った。
改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」については、政府は現時点では出す状況ではないという立場を維持する。政府高官も「感染拡大が急増している認識はなく、法律の改正はあくまで万が一の備えだ」と話す。
一方、首相官邸の記者クラブ「内閣記者会」の幹事社(東京新聞、共同通信)は19日、官邸報道室に対し、新型コロナウイルスに関して新たな方針を打ち出したり、大きな方針変更をしたりする場合は、首相が記者会見を開くよう申し入れた。また、14日の首相会見では、予定時間が経過したとして質問を残したまま終了した経緯もあることから、新型コロナの政府対応について記者会見を開くよう合わせて伝えた。(菊地直己、矢島大輔、三上元)