新型コロナウイルス感染症をめぐり、地方自治体をはじめ各方面から、政府は緊急事態宣言を発令すべきだとの要求が強まっている。私権の制限を含み、国民生活や経済に大きな影響を与えるため、政府は慎重に判断する構えだ。発令に踏み切るには、病院が患者を収容できる余力▽感染経路を追えない新規感染者数▽海外から入国後に感染が確認される「輸入症例」-などが主な指標となる。
緊急事態宣言について定めた新型インフルエンザ等対策特別措置法を所管する西村康稔(やすとし)経済再生担当相は31日の記者会見で「現時点ではまだ宣言が必要でない状況だ」と述べた。「国民生活、医療提供体制や国民経済の影響を見ながら専門家の意見を聞いて判断したい」とも語った。
一方、発令の外堀は埋まりつつある。
東京都の小池百合子知事は31日、首相官邸を訪ね、安倍晋三首相に都内の感染者や病床の空き状況を説明した。緊急事態宣言についても意見交換したとみられる。大阪府の吉村洋文知事は緊急事態宣言を「東京と大阪に出すべきだ」と求めている。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事は31日の記者会見で「(自粛による)だらだらとした対処を続けるなら、緊急事態宣言や首都封鎖(ロックダウン)でスパッと対応した方がいい」と発令に理解を示した。
新型コロナウイルス感染症の政府専門家会議メンバーを務める日本医師会の釜萢(かまやち)敏常任理事は3月30日、緊急事態宣言について「個人的には発出し、それに基づき対応する時期ではないかと思う」と述べ、東京や周辺の県が「危機的状況だ」と訴えた。
特措法では、緊急事態宣言の発令は「国民の生命や健康に著しく重大な被害を与える恐れがある」「全国的かつ急速な蔓延(まんえん)により国民生活や経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある」という要件があり、専門家による基本的対処方針等諮問委員会の判断を必要とする。
前者は季節性インフルエンザよりも重症化例が相当程度高いと認められる場合で、西村氏は「満たしている」と判断している。後者に関して西村氏は「感染経路が追えないものの数と、輸入症例の2つがカギになる」と見る。感染拡大を制御できなくなるためだ。
ただ、定量的な基準は明らかではない。政府関係者は「宣言を出すと経済が死んでしまう可能性がある」と慎重な見方を示し、別の政府高官は「感染者が200人、400人と倍々に増えてからだ」と述べた。(沢田大典)