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 朝日新聞社と東京大学の谷口将紀研究室が3~4月に実施した有権者向け共同調査で、公共サービスの規模が大きい「大きな政府」を求める割合が、2012年の第2次安倍政権発足以降、最大になった。09年の政権交代期と同じ傾向である半面、不満の受け皿となる野党は見当たらず、政党不信も高まっている。(蔵前勝久)

「大きな政府」求める有権者

 調査では、景気対策のための財政出動の賛否を5択で質問。「賛成」「どちらかと言えば賛成」を合わせた賛成派が50%を占めた。

 「社会福祉などのサービスが悪くなっても、お金のかからない小さな政府の方が良い」という考え方についても賛否を聞いた。「反対」「どちらかと言えば反対」を合わせた反対派は44%。「賛成」「どちらかと言えば賛成」の計17%を大きく上回り、「大きな政府」を求める傾向が強いことがはっきりした。

 景気対策を重視し、大きな政府を求める――。こうした有権者の意識はリーマン・ショックの後、自民党から民主党に政権交代した2009年の衆院選の際に行った調査結果と似ている。当時、景気対策のための財政出動の賛成派は50%、小さな政府に反対する意見は46%。リーマン・ショックと同様に有権者には新型コロナによる不安感が広がっているとみられる。

高まる政党不信

 リーマン・ショック時と新型コロナの感染拡大による不安感は似通っていても、政党に対する意識は異なっていた。ここから続き

 調査では、政党や政治家個人について「強い反感」の0度から「強い好感」の100度までの間で回答者に答えてもらう「感情温度」も聞いた。平均温度を計算し、好意も反感もない状態は50度とした。

 09年調査では、自民党は46度でわずかながらも反感を持たれていた。一方、民主党は58度でどちらかといえば好感を持たれていた。

 ところが、今回は自民は50度で好意も反感も持たれていない状態だったのに対し、立憲民主党は39度。立憲は17年の衆院選の際の調査では48度だったことから、9度も反感が強まっていた。政権に対する不満の受け皿になるどころか、有権者から反感を持たれている状態で立憲の地盤沈下が鮮明になったと言える。

 ただ、自民に対する有権者の期待値も下がっている。調査では、政党の支持や不支持に関わらず、政治に最も優先的に取り組んで欲しい課題について、最も上手に対処できると考える政党を尋ねた。自民は「外交・安全保障」「景気・雇用」など7分野すべてで、「最も上手に対処できる政党」だった。

 しかし、17年の調査と比べると、いずれの分野でも「そのような政党はない」が増加していた。優先的に取り組んで欲しい課題に対処できる政党が見当たらない。そんな有権者が増えている構図が見える。

谷口将紀・東大教授(現代日本政治論)の談話

 今回の調査では、二つの変化が浮き彫りになった。

 第1は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う人々の急速な意識変化である。3月の3連休には、東京で桜が満開になるなど各地は多くの人出でにぎわった。ところが、その後に東京五輪パラリンピックの延期、東京都の小池百合子知事による感染爆発の重大局面発言、6年9カ月ぶりに「回復」の文言が消えた月例経済報告、そして緊急事態宣言の前提となる政府対策本部の設置と厳しいニュースが相次ぐと、人々の先行き不安に拍車がかかった。

 これは年齢や職業など回答者の属性や支持政党などの要因を考慮しても統計的に意味のある変化である。このタイミングで布マスク配布や減収世帯への30万円給付構想で不人気を招いたのは、政府にとって痛手となった。

 第2は、危機のかじ取りを誰に任せるか、迷いが見られ始めた点だ。重視する政治課題に最も上手に対処できる政党はどこかを聞いた質問では自民党を選ぶ割合が減り、野党第1党は増えず、「そのような政党はない」という回答が増加した。戦後最大の危機とも言われる中、立憲民主、国民民主両党は3月末まで参院の統一会派解消をめぐる内紛を続けたのだから、この結果もむべなるかなである。

 政府与党の施策がうまくいかず、これに代わる受け皿に野党がなり得ないならば、日本の代表制民主政治はガバナビリティー・クライシス(統治の危機)に陥りかねない。与野党双方に早急な態勢立て直しを望みたい。

朝日東大調査と今回の調査方法

 朝日新聞と東京大学大学院法学政治学研究科の蒲島郁夫(現・熊本県知事)、谷口将紀両研究室は2003年以降、主に国政選挙の候補者を対象に政策や考え方などを聞く共同調査を実施してきた。有権者に対しても調査して、当選者との比較もしている。

 今回は、無作為で選んだ全国有権者3千人を対象に行った。3月4日に調査票を発送し、4月13日までに届いた有効回答は2053人。回収率は68%。昨年7月の参院選で行った候補者調査に合わせた有権者調査の位置づけで行った。

 文中の割合(%)は、小数点以下は四捨五入した。

担当者

 分析は東大・谷口研究室側は谷口教授のほか、淺野良成、大森翔子、金子智樹、高宮秀典の各氏が、朝日新聞側は蔵前勝久が担当した。