無い無い、どこにも無い。新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、東京都内のドラッグストアなどでは、相変わらずマスクの品切れが続く。ところが金券ショップや雑貨店など、意外な場所で山積みで売られていることも。いったいどこから来ているのか。流通ルートを追った。(川嶋かえ)

仲介業者「利益ほぼない」

 7都府県に緊急事態宣言が出された4月上旬。東京・JR新橋駅近くにある雑居ビルの前に、マスクの入荷を知らせる看板を持つ女性が立っていた。

 マスク不足が深刻化してから少なくとも1カ月以上たっていた。周辺の店では売っている様子もない。ビル内のドラッグストアでも「マスク品切れ中」との紙が貼られていた。

 ところがビル内の金券ショップの店先には、50枚入りのマスクが積み上げられ、1箱4500円で売られていた。販売が知られていないためか、行列もなく、時折客が買っていく程度だった。

 ビル内では、ほかにもミックスジュース店や健康食品店など、医療品販売とは関係なさそうな数店舗でマスクが売られていた。

 いずれも50枚入り4千~4500円や、1枚100円といった価格だ。感染拡大の前と比べると価格は数倍だが、法外というわけでもない。女性の持つ看板をみてビルに入った80代男性は「こんなに売っているとは思わず、驚いた」と話し、2箱を買った。マスク不足で困っている知り合いの医療関係者に渡すという。

 マスクは、どこからきたのか。金券ショップのオーナーの男性に聞くと、4月に入って突然、「卸売業者」を名乗る男性が売り込みにきたという。

 「中国製のマスクを1枚60~70円で買わないか」

 その後も1日に2、3人の業者がマスクを売り込んできた。価格は1枚70円前後が多いが、150円を提示した業者もいるという。

 オーナーは、実際は知り合いの業者から中国製を5千枚単位で仕入れた。1枚あたり10円ほど上乗せして販売。1日200箱近く売れた日もあるという。

 ほかに都内で「マスクを売っている」と話題になるのが、輸入雑貨店などが集まる新大久保だ。4月下旬に大久保通りを歩くと、韓国コスメショップやレストラン、雑貨店の店頭で、マスクが山積みだった。

 駅近くのアジア食材の販売店にも、突然つき合いのなかった業者から「中国から輸入したマスクを売らないか」と売り込みがあったという。1箱50枚入りのマスクを購入し、3200円で売っていた。

 各地でその存在を聞かされたのが、国内の店舗と、マスクを生産、販売する中国系企業をつなぐ「仲介役」の業者だ。

 取材に応じた神奈川県在住の40代男性もその一人。男性によると、本業はフリーの企業コンサルタント。その関係で貿易会社や中国系企業と付き合いが多く、もともとは1月末ごろ、感染者が急増していた中国に日本製のマスクを売らないかと打診があったという。

 だが逆に日本国内のマスク不足が深刻になった。知り合いの貿易会社から4月上旬、横浜港経由で入ってきたマスク計9万枚を購入。1枚60円で、数円を上乗せして知り合いの企業や美容室などに売っているという。「利益はほぼない」と話すが、周囲でも「中国とつながりのある貿易会社や、中国に親戚がいる商店が、本業の傍らでマスクを輸入している」と明かす。

 ただし中には、素材が極端に薄いマスクを持ち込んでくる業者もおり、事前にサンプル品を見て質を確認しているという。「たいていの業者が10円くらい上乗せして売っており、仲介者が増えると、それだけ値段が上がる」とも話す。

 中国の工場から直接仕入れている店もあった。東京・日本橋の婦人向け衣料品販売店は普段から、中国製の服を輸入。そのつてで、中国の工場で作られたマスクを4月に20万枚仕入れ、すでに同業の販売店などに売り切ったという。

 街には徐々にマスクが出回るようになっている。新大久保のレンタルスペースでかばん店を開いている男性(49)は、集客目的もあって5枚入りマスクを358円で販売してきたが、こうこぼした。「もう賞味期限が迫ってきたということでしょうね」

品質不明なら「契約拒否」

 ドラッグストアやコンビニなど、普段からマスクを扱ってきた店では、今も品薄状態が続いている。

 厚生労働省によると、国内のマスクの7~8割が海外製。その半数ほどを占める中国からの輸入は1月ごろから不足気味になった。国内メーカーは24時間体制でマスクを増産し、輸入も2月中旬から週1千万枚、4月からは週3千万枚と増えているが、感染拡大で高まっている需要に追いついていないという。

 マスクの増産が世界中で進んでいるため、原材料であるメルトブロー不織布などの価格が上昇。輸入価格も高騰し、同省や消費者庁などによると、従来は50枚入りの使い捨てマスクの仕入れ価格は1枚あたり5~7円ほどだったが、現在は35~50円ほどという。

 国内の大手ドラッグストアでも、取引のない卸売業者などから営業を受けることがあるという。しかし不良品のリスクもあるため、あるグループの担当者は「品質が分からない品を買うのは危ない」として、契約は拒否しているという。

 消費者庁の担当者は「便乗して不当に高く販売する業者もあり、注意が必要。できる限り現物を見て返品に対応する店舗で買い、ネット通販では信頼できる業者なのか調べて買うことが大事だ」と話す。