政府は14日、特措法に基づく緊急事態を39県で解除した。人口10万人あたりの感染者数という新しい基準を示し、これを下回った自治体から解除に踏み切った。感染者数自体はすでにピークアウトしており、この段階での解除は納得できる。出口に向かう基準を示したことも評価していいだろう。合わせて厚労省は来月から大規模な抗体検査を東京都、大阪府、宮城県の3カ所で始めることも決めた。遅まきながら政府の対応もようやくだが、少しずつ前を向き始めたようだ。大阪府の吉村知事は「これまでは守勢一方だったが、これからはコロナとの共存に向けて攻めの体制を作る」と語っている。その通りだと思う。

コロナ対策で必要なことは3つある。①感染拡大阻止②医療崩壊阻止③経済崩壊阻止ーの3つだ。だがこの3つは同時に達成することはできない。何かを阻止するためには何かが犠牲になる、トリレンマの関係といっていい。国際金融市場で展開される①自由な資本移動②通貨の固定相場制③独立した金融政策のトリレンマと一緒だ。同時に達成できるのは2つだけ。だから多くの国が固定相場制を犠牲にしている。コロナ対策の現状は接触機会の8割削減が柱。これは③の経済を犠牲にして、①の感染拡大と②の医療崩壊を阻止する戦略である。この戦略が奏功して緊急事態宣言の部分的な解除が可能になった。これは政府や専門家会議の功績というよりは、危機に直面してワンチームになり、率先して自粛を受け入れた日本国民の勝利といっていいだろう。

だが戦いが終わったわけではない。緊急事態が解除されて人々の接触機会は増える。これまで最大の防波堤だった「3密回避」が後退する。代わってPCR検査、ICU、人工呼吸器、病床など主要な“武器”が増えれば良いのだが、政府・自治体の対応は相変わらずモタモタしている。医師や看護師だってすぐには増やせない。吉村大阪府知事が提案している「コロナ追跡システム」のような、ITを活用した攻めの防止策も、政府が率先して検討している気配もない。感染拡大阻止に向けた唯一の手段だった「自粛」を解く代わりの代替策がほとんど見当たらない。第2、第3の波を防ぐ手段もまた“自粛頼み”ということになりかねない。どこまでいっても後手後手の政府対応が気がかりだ。