ニュースをみて真実が何かわからなくなることがある。政府が新型コロナウイルスの治療薬として期待するアビガンの有効性をめぐる記事もその一つだ。私が最初にこの記事みたのは昨日のbloomberg日本語版。そこには「アビガンの臨床研究で、明確な有効性が示されなかったと、共同通信が複数の関係者の話として伝えた」と書かれていた。政府は早ければ5月中にアビガンを治療薬として承認する方針を示しており、そのための治験が現在複数の医療機関で行われている。その過程で「明確な有効性」が認めらていないというのが昨日の記事だ。小さい記事だが事実なら特ダネだ。これに対して今朝は、この内容を否定する記事が流れている。

前日の記事は、藤田医科大学の治験に基づいて第三者機関がまとめた中間解析に基づいて書かれたもの。これに対して研究を進めている同大学の土井洋平教授がきのう記者会見し、「安全性などに問題はないため、第三者機関から研究を最後まで実施する勧告を受けた」(日経新聞)と共同通信の記事を否定している。どうやら中間解析は有効性を評価したものではなく、この薬の副作用など安全性を評価したもののようである。共同通信の記者はそこを勘違いして「有効性がない」と判断したのかもしれない。そうだとすれば誤報だ。政府は「5月中の承認を目指す考えに変わりはない」(菅官房長官)と強調している。問題は有効性の是非だが、中間解析が公表されていないので、外部から伺い知ることはできない。

本日の日経新聞は「厚生労働省は一定の有効性と安全性が確認できれば早期に承認する態勢を整えている」と、政府方針を改めて確認している。きのはダメかなと思ったアビガンだが、きょうの記事には承認されそうな雰囲気もある。答えは「どっちだ」と言いたくなる。日経新聞は記事の最後に、「新型コロナは8割が軽症で自然に治るとされるため、軽症者向けの薬の有効性を確認するのは難しいという指摘もある」と意味深な“逃げ”を打っている。共同原稿のニュースソースは、膨らみすぎたアビガンに対する“期待感”を沈静化したかった。知ってか知らずか記者はこれに乗って(乗らされて)「有効性が確認できない」と記事にした。これで事情に詳しいニュースソースの“思惑”は達成されたのだろう。治療にはプラセボが効くこともある。記事から真実を読み取るのは難しい。