新型コロナウイルス感染症の治療薬候補アビガンを巡り、安倍晋三首相が目指すとした「5月中の承認」を政府が断念したことが25日、分かった。25日時点で審査の前提となる企業からの承認申請はなく、月内に審査を終えるのは不可能と判断した。政府関係者が明らかにした。

 国内では承認を目指して企業による治験が進んでいるほか、国には大学による臨床研究の結果を承認審査に活用したいとの考えもある。しかし現段階では、有効性を示すデータが出ておらず、手続きが進むのは6月以降になる見通し。

 首相は5月4日の記者会見で「有効性が確認されれば今月中の承認を目指したい」と表明したが、効果や安全性を十分確認できていないにもかかわらず承認の時期を示したことに専門家らから「審査がないがしろにされる恐れがあり、発言は前のめりだ」と批判が出ていた。

 アビガンは富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザの治療薬。同社は有効性や安全性を確認する治験を行っているが6月末まで続く予定で、申請をすぐに出すのは難しい情勢だ。

 このほかに藤田医大(愛知県)を中心に、無症状と軽症者を対象にした多数の施設が参加する臨床研究が行われている。

 厚生労働省は早期承認に向けて、この研究データを使って審査を行うことを検討したが、複数の関係者によると、今月中旬に報告された中間解析結果で、ウイルスの消失率に明確な差が出なかった。藤田医大は今後も研究を続けるとしている。

 政府は、今後明らかになっていく治験や臨床研究のデータを踏まえ、有効性が認められれば、引き続き早期の承認を目指す考えは変わらないとしている。