Jeffrey Goldfarb

[香港 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] – オーストラリア政府が今回経験した「幸運」を、ビッグデータ信奉者は貴重な教訓として謙虚に受け止めるべきだろう。 

同国の財務当局は、新型コロナウイルス危機の目玉対策の規模が、当初算定した1300億豪ドル(850億米ドル)ではなく、700億豪ドルにとどまることに気が付いたところだ。ここに至るまでの一連の誤りを検証すれば、他国は不運な結果を避ける参考にできるかもしれない。 

新型コロナウイルスがもたらす経済危機に先手を打とうと、同国のモリソン首相は今年3月、当時として世界最大級の景気刺激策を急ごしらえで打ち出した。 

「ジョブキーパー(雇用維持)」計画と銘打たれた労働者の賃金助成策は、発表では同国の国内総生産(GDP)の6.5%にも相当する規模だった。そして、それでも巨大な財政負担を伴う包括対策のごく一部にすぎなかった。 

非常事態の下で、果敢に対応した政治家が責められるべきではない。 

オーストラリアの政治家は疫学的な予測に基づいて動いていた。ただ、この予測は結果的に、同国のコロナ感染率や死亡率を過度に悲観していたことが明らかになっている。その結果、病床数や失業者数、その他多くの想定を誤ることになった。 

誤ったデータの入力が、エラーをさらに広げた。 

給付金を申請した中小企業91万社のうち、実に約1000社の申請用紙記入が間違っていたため、単なる誤差に収まらない大きな差異が生じたのだ。従業員1人の企業の多くが、人数を1500人と誤入力していた。2週間ごとに従業員1人当たりに支給される金額1500豪ドルと、従業員の人数とを混同して入力したものだった。 

修正後の給付対象人数は、当初予想の650万人から約350万人となり、必要経費は当初見込みから半分近く減る見込みだ。 

オーストラリアの過ちは、それでも幸運だったと言える。計画段階で短期間、財源と結び付けられただけで、配分されてしまわないで済んだ。他方、行き詰まった企業経営者や失業した個人から提出される山のような書類を処理している他の国の当局者は、「逆方向」の計算ミスをしがちだろう。 

ノイズだらけのデータは、経済や金融のモデルを大きく広くゆがめる。そして、今回の新型コロナは「大騒音」ともいうべきノイズを発生させている。 

政策決定が急いでなされたり、間違った数字に基づいていたりすれば、悲惨な結果を生む可能性がある。例えば、中国での民間企業に関する信頼性に欠ける情報は、そうした企業が受ける困窮度の測定を複雑にする。インドのような「地下経済」の占める割合が多い国々なら、算定はもっと難しい。 

ビッグデータの将来性は魅力的だが、オーストラリアの失敗はそこに明らかな警告を発している。 

●背景となるニュース 

*オーストラリアの財務省と財務局は22日、新型コロナ対策としての企業への給与支払い補助制度の財政負担について、当初見込みの1300億豪ドルではなく700億豪ドル(457億米ドル)にとどまると発表した。最近になって、中小企業による申請ミスが見つかったためという。 

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)