Gina Chon

[サンフランシスコ 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 米国は中国に、新型コロナウイルス感染のパンデミック(大流行)を引き起こした代償を支払わせる新たな手段を見つけ出した。香港に狙いを付けることだ。 

ポンペオ米国務長官は27日、香港にもはや高度な自治はないと宣言した。これにより、米国が香港を中国本土と区別し、貿易や旅行に関して与えてきた特別待遇が打ち切られる可能性がある。ポンペオ氏の主張はおおむね正しい。中国は香港への政治統制を強化する目的で国家安全法制の導入を提案しており、米議会の与野党双方が反発しているのだ。 

優遇措置がなくなれば、当然香港が真っ先に、そして最も大きな痛手を受ける。香港に展開する米企業は1300社で、米国とのモノ・サービスの貿易額は年間700億ドルに達するだけでなく、トランプ政権が中国に対して発動した関税の適用も受けていない。香港は中国本土が輸入できないような先端技術も利用可能だし、米政府のビザ発給基準は香港市民の方が本土より緩やかだ。 

確かに香港は中国に接した、ちっぽけな領土だ。しかし中国は別のリスクとも向き合っている。27日には数千人の香港市民が国家安全法制への抗議のため街頭に繰り出し、数百人が拘束された。そこに米国の優遇措置廃止に伴う経済的打撃が加われば、市民をさらに刺激しかねない。今のところ中国側は天安門事件当時のような強硬手段行使を控えているとはいえ、騒乱がさらにエスカレートすれば、中国政府がどこまで我慢できるか分からない。 

トランプ大統領はこれまで、香港の民主主義が危機的状況を迎えていても、それほど強い対応を取らず、香港での人権侵害に関与した当局者に制裁を科す権限を得ているにもかかわらず実行していない優先してきたのは中国との貿易協議の合意だった。ただ11月の大統領選を前に、政治的計算が変わったのかもしれない。新型コロナで4月の米失業率は15%近くに跳ね上がった。そしてトランプ氏は今、中国が適切な感染対策を講じなかったとして責任を追及している。 

こうしたトランプ氏の態度が、米中対立の新たな局面を生み出している。香港への幾つかの優遇措置を撤廃するとともに、中国の政府当局者や企業を対象とする制裁措置が検討されつつある。一方トランプ氏は、自身の対中強硬姿勢を再選戦略の一部に組み込んだ。野党・民主党の候補指名を獲得しそうなバイデン前副大統領を中国に弱腰だと批判するようになった。米中が政治的にぶつかり合って火花を散らす中で、香港は不運にもその火の粉を浴びてしまう恐れがある。 

●背景となるニュース 

*ポンペオ米国務長官は27日、香港にもはや高度な自治はないと議会に報告した。 
*米国が香港に付与している貿易や旅行の優遇措置について、ポンペオ氏は香港がそうした措置に値しなくなっていると指摘。中国が香港に国家安全法制を導入しようとしていることを踏まえ、「合理的な判断をする人であれば、現在の香港が中国からの高度な自治を維持していると主張することはできない」と述べた。 
*中国は、国家の分裂や転覆、テロ、外国による干渉の手引きなどを取り締まる国家安全法制を香港に導入することを提案した。 

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)