持続化給付金をめぐる主な疑問

 新型コロナウイルス対策の持続化給付金をめぐり、給付事業の民間委託のあり方に批判が集まるなか、今年度第2次補正予算案が10日、衆院本会議で可決された。審議の舞台は参議院に移るが、委託先の選考や再委託に問題はなかったのかなど、疑問は尽きない。

入札は適切だったのか

 「よく経緯がわからない。適正な入札が行われたのか」。立憲民主党の川内博史氏は9日の衆院予算委員会で、委託先を選んだ入札に疑問を投げかけた。

 経済産業省は4月8日に請負業者を公募。入札には「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」と、コンサルティング会社の「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー」が参加した。経産省は同14日に協議会を選び、同30日に769億円で事務作業を委託する契約を結んだ。

 ところが、公募開始前の3月30日と4月2日に、経産省が協議会側と面会していたことが判明。協議会が受託費の97%にあたる749億円で実務の大半を再委託した電通の担当者も同席していた。

 経産省は入札調書を公表したが、入札予定価格やデロイトの入札価格は黒塗りで、入札が公正に行われたのかは判断できない。資本金や営業年数などをもとに経産省が決めた入札資格の等級は、協議会の「C」に対し、デロイトは最高の「A」。協議会は2016年の設立以降、法律で決められた決算公告も全くしていなかった。梶山弘志経産相は「契約に瑕疵(かし)はない」とするが、野党は「談合なんじゃないか」(立憲民主党の大串博志氏)と疑いの目を向ける。

なぜ電通が契約しないのか

 そもそも、なぜ電通は事業を直接引き受けなかったのか。電通の榑谷(くれたに)典洋副社長は8日の会見で「協議会が給付金事業の経験を持っていた」などと説明した。しかし、協議会の事務所は野党議員が訪ねても不在が続き、実態をいぶかる声もあがる。榑谷氏は、巨額の給付金の原資を自社の貸借対照表に計上することが「経理部門の判断として不適切だった」とも述べたが、自社の都合で、理由にならないとの指摘もある。

 協議会はもともと、電通や人材サービス大手パソナなどが16年に設立。これまでも、経産省の事業計14件約1600億円を受注してきた。野党は「『電通ダミー法人』による丸投げ、中抜きという疑惑がある」(立憲民主党の枝野幸男氏)などと批判する。電通などが受注したことや、自らの取り分を見えにくくするためにこうした構図を作ったのでは、とみる。

再委託の闇、経産相も中身見えない

 事業の民間委託や外注そのものは悪いことではないが、それが繰り返されると、予算の無駄遣いがないかなどの「チェックが行き届きにくくなる」(国民民主党の玉木雄一郎氏)。

 実際、協議会が事業にかかわる企業の全体像を示す履行体制図を経産省に提出したのは今月8日。梶山弘志経産相は予算委員会で、4次下請け以下の業者名などについて、「初めて聞いた」などと答弁するしかなかった。事業に関わる企業が何社に上り、いくらの利益を上げているのかも不明だ。

 経産省は今回の事業について、月内にも外部の専門家も入れてお金の使い方を検査する。ただ、同様なほかの委託事業は検査の対象外にするなど、どこまで本気で調べるつもりなのかが分からない。

 10日の野党合同ヒアリングでは、今回の事業の一部を電通子会社から請け負っていたイベント会社「テー・オー・ダブリュー」で2010年、長谷川栄一・元中小企業庁長官が顧問に就任していたことも追及された。長谷川氏は現在、首相補佐官で内閣広報官を務めている。長谷川氏によると首相補佐官への就任を前に12年12月には退任しており、朝日新聞の取材に対し「役所から仕事をとるという仕事はしていない」などと話した。

なぜ支給が進まないのか

 野党合同ヒアリングでは、給付金の受け付け初日の5月1日に申請したものの、現在も振り込まれていないというウェブ制作会社の経営者が苦境を訴えた。

 「諦め、自暴自棄、気力低下に追いやられている。最悪の状況を迎えた方もいる。申請者の責任なんでしょうか」。野党統一会派の山井和則氏は「1カ月経っても未入金の方が数万人いる。本当に厳しい状況になっている」とただした。

 経産省は遅れの原因は主に申請者の入力内容の不備だとし、近く審査を強化するという。ただ、委託や外注が繰り返され、給付の目詰まりの原因を特定するのは難しい。10日の衆院予算委で玉木氏は「四重塔、五重塔ぐらいになって、塔がどれぐらいの高さになるのかわからない。全体像を把握していただきたい」と求めた。