トランプ米大統領(左)とバイデン前副大統領【AFP時事】
トランプ米大統領(左)とバイデン前副大統領【AFP時事】

 ◆国際エコノミスト・今井 澂◆


 「連日の暴動(抗議デモ)は選挙には関係ない。黒人の若年層は投票権がないか、投票所に行かない」と解説してくれたのは、在米の知人。やはりトランプ再選だという。

 理由は次の通り。

 (1)一般的な世論調査ではバイデン候補がトランプ大統領を6ポイント程度リードしている。しかし「投票する」と答えた有権者への調査では、逆に3~5ポイント、トランプ優勢。

 (2)選挙資金の潤沢さ(トランプ2億5000万ドル、バイデン6000万ドル)。選挙戦では高額なTVスポット広告で、攻撃されたら直ちに反撃できる。この差は大きい。

 (3)中国たたき。米国民の67%が習近平体制に反感を持ち、反中政策は人気。特に共和党びいきの93%がトランプ支持だ。

 中国攻撃は、民主党をたたくことにつながる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(2020年4月22日)によると、バイデンの息子が中国との間に持つ利権をトランプ陣営は調査中。同時に、民主党幹部の中に、中国に利権を持つ人物が複数浮上しているという。

 ◆「オバマゲート」追及

 トランプ政権発足直後に、フリン大統領補佐官が辞任。その後、ロシア大使に接触したとして起訴されたが、5月7日、司法省は起訴を取り下げた。

 FBI(米連邦捜査局)がうそを強要したメモが見つかったとされ、トランプ大統領は「オバマゲート」と呼んでいる。トランプ政権にとって大勝利だ。

 5月12日、ワシントン連邦地裁は、起訴取り下げの承認を見送った。今後、第三者の意見を参考に、事実関係を精査して結論を出す。2~3カ月かかるとみられているが、トランプ側が有利な材料を手にしていることに変わりはない。

 民主党指導部によるフリン起訴の仕掛けも、問題視されている。

米経済の行方は依然、不透明だがhellip;=2020年4月30日、米ニューヨーク証券取引所前【AFP時事】
米経済の行方は依然、不透明だがhellip;=2020年4月30日、米ニューヨーク証券取引所前【AFP時事】

 2016年大統領選当時、ヒラリー・クリントン候補を勝たせるべく、国家権力を使ってトランプ陣営を妨害したとされる。しかし、トランプ当選で思惑は狂い、FBIを使ってフリン氏に罪を着せ、同時にトランプを陥れようとしたという。

 司法省は「オバマ側がスパイ行為をしていた証拠を握っている」と発言。これも11月の大統領選の前に結論が出れば、トランプ側有利になる。


 ◆不安があるとすれば

 再選への大きな不安は、連邦最高裁に上がっているトランプの納税・銀行取引記録の開示問題だ。

 下院とニューヨーク市検察当局がトランプ取引銀行に開示を求め、大統領側は拒否している。5月12日、第1回口頭弁論がバーチャルで行われ、6月末には判決が出る見通しだ。

 最高裁が「開示すべし」と判断すれば、過去の税法違反や税の過少申告などが明るみに出て、トランプ再選は苦しくなる。

 9人の最高裁判事のうち、5人が保守派、つまり親トランプだ。しかし、トランプがツイッターで判事の一部を批判して、ひと騒ぎあったので、判決の行方は分からない。

 もちろん、大激戦必至の選挙の見通しを断言するには、まだ早い。しかし、最近の株高と、景気の底入れは、トランプ大統領への最高の追い風だ。

 6月5日の雇用統計では、就業者数が急回復し、マイナスからプラスへ転じた。また5月、自動車産業の立ち直りが明瞭に。

 株高は、超金融緩和と企業収益期待、信用不安低下を材料とするもの。英国のブックメーカーの賭け率を見ると、57%の確率でトランプ勝利を予測している。

 (時事通信社「コメントライナー」2020年6月12日号より)

 【筆者紹介】

 今井 澂(いまい・きよし) 慶応大学経済学部卒。1959~89年山一證券、山一證券経済研究所、山一投資顧問。日債銀投資顧問専務を経て、97年独立。現在、財団法人年金シニアプラン総合研究機構理事、NPO金融知力普及協会理事。経済・金融の先行き、株・為替相場の予想に強い。「米中の新冷戦時代 漁夫の利を得る日本株」「恐慌化する世界で日本が一人勝ちする」など著書多数。