4日に放送されたNHKスペシャル「人体V Sウイルス〜驚異の免疫ネットワーク」(タモリ×山中伸弥)を観た。人間の体内に存在している免疫機能がウイルスをどうやって排除するのか、その仕組みがわかりやすく解説されていて大変面白かった。なかでも「なるほど」と納得したのは、人間とウイルスの長い付き合いだ。山中教授によると人間がこの世に生を受けたのは今から40億年前。人類の大元の祖先はたった一つの細胞だった。この細胞が地球環境の変化に対応すながら、分裂を繰り返して今日の我々の姿に進化する。面白いのは40億年前にすでにウイルスも存在していたということだ。以来人間の細胞はウイルスと永遠のライバル関係になり、壮絶なる戦いを繰り広げながら40億年という歳月を共存してきたというのである。

ウイルスの目的は人間の細胞に入り込んで、仲間を増やすこと。これに対して人間の細胞は、免疫機能を進化させながらウイルスの侵入を防ぐ防御機能を発展させてきた。「ウイルスに頭はないでしょう」、タモリが視聴者の抱く疑問をさりげなく口にする。ウイルスに頭脳があるわけではない。「数を増やしたいだけでしょう」(山中教授)、何のために数を増やしたいのか、その理由は「科学者にもわからない」(同)。愚考するにこれが生存本能というヤツだろう。意識的ではないがとにかく子孫を残す、そのためにありとあらゆる手段を講ずる。考えてみれば恐ろしい存在だ。だが、恐ろしいだけではない。人間の細胞はそのウイルスから細胞に入り込む技術を盗みとった。例えば、卵子に侵入する精子。その侵入技術はウイルスから奪い取ったものだという。

ウイルスもまた人間の細胞の進化に対応して変異する。お互いがお互いを利用しながら、さらに強力な存在へと進化する。いっときも同じところに止まらない。絶えず変化しながら新しい存在に自らを作り替えていく。まさに福岡伸一教授が指摘する「動的平衡論」である。ウイルス同様に人間の免疫機能も人間の指示を受けているわけではない。ウイルスに備わっている生存本能と同様に、免疫機能もまた周囲の状況を取り入れながら自ら進化しているのだ。どんなに医学や科学が進化しても、自然に備わった免疫機能以上の機能を人工的に作り出すことはできないだろう。免疫機能はウイルスの力を借りて自らの能力を高めている。ウイルスは明らかに人類の敵だ。だが、この敵とは戦いながら共存する、それしか道はない。NHKスペシャルを観ながらそんなことを考えた。