【北京時事】中国がヒマラヤ山脈の隣国ブータン東部の領有権を主張し、反発を招いている。国交がない両国は2016年まで国境画定交渉を24回重ねているが、ブータン側によれば、東部が議題に上ったことはなかった。中国による新たな争点化は、ブータンと結び付きが強く、対中国境紛争が再燃しているインドをけん制する狙いもあるとみられている。
中国がブータン東部「サクテン野生生物保護区」の領有権に言及したのは、6月初旬にオンラインで行われた国際機関「地球環境ファシリティー(GEF)」の会議。議事録によると、中国側代表は「ブータンとの係争地に位置し、両国の国境画定協議の議題になっている」と表明。ブータン側代表は「係争地として協議したことはない。中国の主張を完全に拒否する」と反発した。
中国外務省の汪文斌副報道局長は今月21日の記者会見で「(ブータン)東部、中部、西部いずれも長らく未画定の係争地がある」と述べた。
保護区の東はインドが実効支配するアルナチャルプラデシュ州に隣接し、中国は同州も「南チベット」と呼んで領有権を唱える。インドでは、中国のブータン東部をめぐる動きは「アルナチャルプラデシュ州への干渉を強める」(ヒンズー紙)狙いがあるとして、警戒感が高まっている。
中印両軍は6月中旬、中国西部とインド北部ラダック地方の国境地帯で衝突。インド側は1967年の両軍衝突以降で最悪の死者20人、中国側も数は非公表だが死傷者が出た。撤退で合意後も双方の緊張は続く。
一方、ブータン西部と中国の係争地ドクラム高地では17年、道路建設を始めた中国軍と、ブータンに駐留する後ろ盾のインド軍が約2カ月間、にらみ合った。オンライン誌ディプロマットは、ブータン国土の1割以上と広大な東部地域への中国の領有権主張はドクラムなど他地域での譲歩を迫る意図があり、「中国はインドとブータンの間にくさびを打とうとしている」と指摘した。