今年の夏は暑かった。過去形にするのはまだ早い。猛暑はまだまだ続く。個人的にはうんざりしているのだが、これが日本の夏だからしかたがない。耐えるしかないが、例年に比べて一つ違うのはコロナウイルスが加わったことだ。コロナ対応に明確な方針がないことが、日本の夏を余計に暑苦しくしているような気がする。メディアの報道を見る限り新幹線をはじめ電車はガラガラ。高速道路はあちこちで渋滞が発生したが、それでも例年に比べると渋滞区間は圧倒的に短くなっている。小池都知事をはじめ自治体首長による帰省の自粛要請が効いたわけではないだろう。要請がなくても日本国民は自主的に帰省を控えたのではないか。何となくそんな気がする。空気を察するに敏な日本人のメンタリティーが、自粛の群れを作り出している。

そんな中で「ヘェ〜」と思ったのは高級ホテルや旅館に予約が殺到しているというニュースだ。神奈川県の高級旅館の支配人がテレビで、「今年は例年以上に予約が殺到しています」と話していた。「Go Toトラベル」を利用した県内居住者の予約が例年以上に多くなっているという。新聞テレビは連日コロナの感染拡大に絡めて政府のちぐはぐな対応を批判しているが、神奈川県民はそんな報道を無視するかのように普段は滅多に利用できない高級ホテルや旅館に予約を入れているのだろう。若い人が多いようだ。考ええてみれば旅行費用の半額を政府が負担してくれるわけだから、利用するなら料金が高いホテルや旅館の方が“お得感”がある。賢明な判断というべきだろう。だがそうなると、壊滅的な打撃を受けている中小・零細な旅館やホテルは置いてきぼりを食うわけで、Go Toキャンペーンそのものが零細業者切り捨ての役割を担うことになる。政府はそこまで考えたのだろうか、ふと疑問に思った。

日本は猛暑にもかかわらず比較的平穏な夏。だが、世界は相変わらず不安定だ。香港では周庭氏をはじめ民主派を代表する活動家が例の国安法で逮捕された。翌日保釈されたものの、中国の強権的な香港制圧の思惑が明らかになってきた。連れて米中関係も一段と悪化の様相を呈している。トランプ大統領が「TikTok」の米国内利用禁止を打ち出した。中国ウォチャーの近藤大介氏によると、TikTokの運営を行っている中国人の若者は中国政府とは無縁の存在で、むしろアメリカナイズされた自由な発想を大事にする人達だという。どこかで何かが架け違っている気がするが、これも国際政治の現実かもしれない。大統領選挙を控えている。米中対決の構図を称しては“冷戦”と呼ぶが、中身は日本の夏以上にホットで危険な気がする。今日から日本は再び通常の生活が始まるが、冷気を感じるのは野党の統一問題ぐらい。猛暑が気候にとどまっている限り日本は暑くても平穏だ。