王位戦2日目 詳報タイムライン
将棋の高校生棋士、藤井聡太棋聖(18)が20日、福岡市中央区の大濠公園能楽堂で行われた第61期王位戦七番勝負(新聞三社連合主催)の第4局で、木村一基王位(47)に勝ち、シリーズ4連勝でタイトルを奪取した。これで棋聖とあわせ二冠となり、タイトル2期獲得の規定により八段に昇段した。18歳1カ月での二冠と八段昇段は、いずれも最年少記録となる。
封じ手の「△8七同飛成」を指す藤井聡太棋聖(手前右)、2020年8月20日、福岡市中央区の大濠公園能楽堂、日本将棋連盟提供
将棋のタイトルは現在、名人、竜王、叡王(えいおう)、王位、王座、棋王、王将、棋聖の八つ。藤井棋聖は7月、第91期棋聖戦五番勝負で渡辺明名人(36)=棋王・王将とあわせ三冠=を3勝1敗で破り、史上最年少の17歳11カ月で初タイトルを獲得した。
王位戦では初参加の挑戦者決定リーグで羽生善治九段(49)ら5人に全勝して挑戦者決定戦に進出。決定戦で永瀬拓矢二冠(27)=叡王・王座=に勝ち、予選から10戦無敗で挑戦権を獲得した。7月に開幕した王位戦七番勝負では、昨年、最年長の46歳で初タイトルを獲得した木村王位を対戦成績の上では圧倒。棋聖獲得からわずか1カ月強で二つ目のタイトルを手にした。ここから続き
藤井棋聖「最後、かなり怖い形が続いた」
将棋の第61期王位戦七番勝負の第4局が19、20日、福岡市で指され、藤井聡太棋聖(18)が木村一基王位(47)に80手で勝ち、対戦成績4勝0敗でタイトルを奪取した。両対局者は対局後、報道陣のインタビューに応じた。一問一答は以下の通り。
――序盤の手応えは。
藤井 1五歩と積極的に動かれて、そこでこちらがどうバランスをとればいいのか難しいのかなと。
――封じ手のあたりは。8七同飛成に36分考えた。
藤井 そうですね。うーん。少し苦しいのかなと思っていて。8七銀に2六飛だと2七歩と打たれて飛車が働かなくなってしまうので、同飛車成で勝負しようと思いました。
――5五同飛に3三角と打った。
藤井 3三角の後に、本譜の8六歩から8八歩という攻め筋があるので、こちらにも楽しみが出てきた気がしました。
――と金を作って7九角と攻めたあたりは。
藤井 7九角から9九ととして、そうですね……。難しいですけど、攻めがつながる形になってきたような気がしました。
――木村王位の鋭い攻めをはね返した。最終盤、どこで勝利を確信したか。
藤井 最後、後手の玉がかなり怖い形が続いたのでわからなかった。うーん、7一玉と引いて、1手勝ちの形なのかなと思いました。
――七番勝負を振り返って。
藤井 自分にとって初めての2日制の対局でしたし、得るものがあったのかなと思います。内容的には押されている将棋が多かったと思うので、4連勝という結果は望外というか、実力以上の結果だったかなと思います。
――王位というタイトルを獲得した心境を。
藤井 あまり実感がないところではあるんですが、今回七番勝負でいい経験ができたと思う。それを生かせるように引き続き頑張っていきたい。
――最年少での二冠、最年少の八段になった。
藤井 それについては全く対局に臨むにあたっては意識していなかったことではある。棋聖戦と王位戦、今年は二つのタイトル戦に出られて、その中で結果を残すことができたのは収穫だったかなと思います。
――4局戦って、一番大きかったなと思う勝利は。その理由は。
藤井 第2局が、中盤から終盤まで苦しい形勢が続いていたので、そこを勝つことができたのが大きかったかなと思います。
――木村王位と戦ってみての印象は。
藤井 木村王位が攻守共に力強い手が多いという印象だった。指してみて、こちらの読みにない好手を指されることが多かった。勉強になるシリーズだった。
――木村王位にお聞きします。2五飛と引く形が研究でしたか。
木村 はい、やってみようと思っていた手でした。
――序盤の手応えは。
木村 先手として、いいとは思っていませんでしたけど、まずまずかと思っていました。今日に入って、5五角と打ったのが……。気が変わっちゃって。6六角と打つつもりでずっと組み立てていたんですけど、予定を変更して(5五角と)打ってしまってから、攻められる展開になってしまって、ちょっと悪い流れをひきずりながらやっていた。最後は差が開いてしまったので、良くなかった。
――挑戦者の、8八歩からと金を作って角を打っていく構想は。
木村 損のないようにやられてしまったかなという感じがしています。
――タイトルホルダーとしての七番勝負だった。
木村 まあ、ストレート負けは恥ずかしい限りで、申し訳ないと思っています。また一から出直します。
――藤井さんが相手で注目された。
木村 いつも通り指すように心がけていた。特に何か意識したことはありません。
――ストレート負けの要因は。
木村 わかりません。うち帰って反省します。
――家族には伝えますか。
木村 まあ、もううちに伝わっているでしょうから。
――封じ手は(8七)同飛車だった。
木村 (飛車を逃げる2六飛と)半分半分だと思っていました。昨日、ホテルに戻ってからは、2通りの手順を考えていました。
――昨年、最年長でタイトルを取った。1期で失ってしまった。
木村 まあ実力のものですから、仕方がないことです。「またやり直せ」ということでしょう。
――4局、藤井棋聖と戦った。印象は。
木村 何度も申し上げていますけど、ミスが少ないな、と感じました。対して私の方がミスが多かったので。反省材料になります。
――戦う前、1勝すれば意識が変わると話していた。第2局は押していた。シリーズを通して大きかったのは。
木村 先ほど藤井さんが2局目を挙げていましたが、私もそうですかね。ただ、どれも頑張ったんだけど少し力が足りないということを感じましたので、実力が出たのかなと感じています。
――初めての防衛戦だった。挑戦の時と心理的に違いは。
木村 臨む姿勢とか準備とかは変わらずやったつもり。結果には結びつきませんでしたけど。いつも通りというか、変わらずに臨むことはできました。重圧とかそういったことはなかったです。
16:59
木村王位が投了
木村王位が投了を告げ、終局した。挑戦者の藤井棋聖が対戦成績を4勝0敗とし、タイトルを奪取した。棋聖に王位をあわせて二冠に。タイトル2期獲得という昇段の条件を満たし、八段昇段も決めた。二冠達成も八段昇段も、史上最年少記録。(佐藤圭司)
16:30
木村王位が突撃
木村王位が勝負に出た。桂馬を捨て、自分の飛車と相手の香車を刺し違えて一気に迫ったのだ。藤井棋聖の玉は、あっという間に不安定な状態になった。
木村王位は、続けざまに香車と角を王手で打つ。さらには角を動かす「開き王手」で、相手の銀をただで取ることに成功した。このような「開き王手」は実戦ではなく、詰将棋でよく出てくる。詰将棋を得意とする藤井棋聖にとっては、戸惑う手順ではなかったかもしれない。
派手な応酬が繰り広げられたが、形勢は藤井棋聖がいいようだ。しばらくの間、猛攻を仕掛けていた木村王位が守りの手を指した。ここで藤井棋聖が考え込んでいる。大詰めの終盤戦だ。(村瀬信也)
15:30
藤井棋聖、押し気味に
藤井棋聖が5四に香車を打った。5六にいる飛車を攻めながら、木村王位の玉にも脅威を与える厳しい手だ。藤井棋聖が押し気味に進めている。ABEMAのネット中継では、藤井棋聖の勝率が「77%」と表示されている。(村瀬信也)
15:00
午後のおやつ
両対局者の午後おやつの注文は、木村王位が「なめらかショコラムースケーキ」と「アイスコーヒー」、藤井棋聖が「アイスティー」と「オレンジジュース」だった。藤井棋聖は飲み物のみだ。局面は既に終盤の入り口になっているので、共にゆっくり味わう余裕はないかもしれない。(村瀬信也)
木村王位がおやつに注文した「なめらかショコラムースケーキ」と「アイスコーヒー」=日本将棋連盟提供
藤井棋聖がおやつに注文した「アイスティー」と「オレンジジュース」=日本将棋連盟提供
13:30
対局再開
1時間の昼食休憩が終わり、対局が再開した。
ここから先は、「3時のおやつ」は提供されるが、まとまった休憩時間はなく、終局まで進む予定だ。(佐藤圭司)
12:00
昼食を注文
木村王位が53手目を考慮中に午後0時半になり、昼食休憩に入った。「藤井棋聖の攻め」「木村王位の受け」という棋風通りの展開になっている。ここまでの消費時間は木村王位が5時間30分、藤井棋聖が5時間43分。昼食の注文は、木村王位が「糸島ポークカツカレー」(ライス少なめ)、藤井棋聖が「福岡産高菜ピラフ」とウーロン茶だった。対局は午後1時半に再開する。(村瀬信也)
木村王位の昼食は「糸島ポークカツカレー」(サラダ付き)。「ライス少なめ」とのこと=日本将棋連盟提供
藤井棋聖のメニューは「福岡産高菜ピラフ」(スープ、サラダ付き)=日本将棋連盟提供
10:00
午前のおやつ
2日目午前のおやつは、藤井棋聖が「宮崎県産マンゴー杏仁(あんにん)プリン」と「アイスコーヒー」、木村王位が「グレープフルーツジュース」。
藤井棋聖のメニューは、1日目午前のおやつと同じ。一方、木村王位の1日目午前のおやつは「アイスコーヒー」だった。(佐藤圭司)
2日目午前の藤井棋聖のおやつは、「宮崎県産マンゴー杏仁プリン」と「アイスコーヒー」=日本将棋連盟提供
2日目午前の木村王位のおやつは「グレープフルーツジュース」=日本将棋連盟提供
「同飛車大学」とは?
対局が再開してまもなく、ツイッターのトレンドに「同飛車大学」という見慣れない言葉がランクインした。どういう意味だろうか。
「同飛車大学」のフレーズを用いた豊川孝弘七段=絵・桑高克直
「同飛車(どうひしゃ)」というのは、「直前に動かされた相手の駒を飛車で取る」ことを指す言葉だ。それと同志社大学をかけた言い回しが「同飛車大学」。オヤジギャグを交えて解説することで知られる豊川孝弘七段(53)がしばしば使うフレーズだ。
王位戦七番勝負第4局に臨む挑戦者の藤井聡太棋聖(左)。右は木村一基王位(2020年8月19日、福岡市中央区の大濠公園能楽堂、日本将棋連盟提供)
本局で藤井棋聖が封じ手に選んだのは、直前に8七に動かされた銀を取る「△8七同飛成」(棋譜表記の場合は「車」を省く)。飛車と銀を刺し違える鮮烈な手だけに、多くの将棋ファンが思わずツイートしたくなったのかもしれない。
今回の王位戦第4局では、まさにその豊川七段が副立会人を務めている。本家の「同飛車大学」は、現地で飛び出しただろうか。(村瀬信也)
09:00
2日目、始まる
対局再開の10分前に木村王位が対局室に入り、1日目の手順の再現が始まった。午前9時になり、立会人の中田功八段(53)が封じ手を開封。藤井棋聖が19日夜に封じた42手目は△8七同飛成だった。
1日目の手順を再現する藤井聡太棋聖=2020年8月20日、福岡市中央区の大濠公園能楽堂、日本将棋連盟提供
飛車と銀を刺し違えるこの手は決断の一手だ。飛車取りになっている局面だったため、飛車を逃がす手を第一候補として考えそうだが、藤井棋聖はさらに過激な手を掘り下げていた。封じ手を示された木村王位は何度もうなずいていた。この手をどれぐらい読んでいただろうか。
王位戦第4局2日目に臨む木村一基王位=2020年8月20日、福岡市中央区の大濠公園能楽堂、日本将棋連盟提供
木村王位が金で飛車を取った手は必然の手。藤井棋聖は飛車と香の両にらみで角を打ち、席を外した。木村王位は昨日と同じ、ジョギングなどで使うタイプの黒いマスクを身につけて考え込んでいる。(村瀬信也)