藤井聡太棋士の快進撃が止まらない。朝日新聞デジタルの記事をそっくり引用する。昨日「福岡市中央区の大濠公園能楽堂で行われた第61期王位戦七番勝負(新聞三社連合主催)の第4局で、木村一基王位(47)に勝ち、シリーズ4連勝でタイトルを奪取した。これで棋聖とあわせ二冠となり、タイトル2期獲得の規定により八段に昇段した。18歳1カ月での二冠と八段昇段は、いずれも最年少記録となる」。何から何まで記録ずくめだ。18歳にしてすでに大人の風格を感じる。和服がまだちょっと体にフィットしていない感じがするが、タイトル獲得後の記者会見で語る言葉はどこまでも謙虚。静かな語り口の中にさらなる高みを目指す強い意志を感じる。この人の強さはどこから来るのだろうか、ど素人なりにそんなことを考えてみた。

藤井二冠の天賦の才能は語るまでもないだろう。才能に加えた努力、こういうのはあまりにも普通過ぎて「強さ」の証にはならない。AI将棋を身近において熱心に研究していることもよく知られている。AIを相手に将棋の研究をしているのは藤井棋士に限らない。昨今、プロもアマもAIなくして将棋の研究はできないだろう。そうなると強さの秘訣はやっぱり「天賦の才能」ということになる。もちろんそれ無くしてプロの世界で勝ち残ることはできない。おそらく藤井プロは「天賦の才能」プラス「努力」のほかに、もう一つ何か別の能力を持っているような気がする。それは何か。それがわかれば誰でも歴史に名を残せるだろう。藤井棋士本人もおそらくわかっていないだろう。もう一つの何かは「天賦の才能」と「努力」に紛れて藤井棋士の最年少記録更新に貢献している。

藤井棋士はかつてどこかで、AIには得意な局面と不得意な局面があるといった趣旨の発言をしていた。将棋の手数は無限にあるのだが、その中から対戦者は交互に最善の一手を選択する。常に最善の一手を指し続けることができれば、その棋士は誰と対戦しても負けることはないだろう。だが、人間のやることにミスは付き物。ミスの確率は人間よりAIの方が圧倒的に小さい。ここに人間とAIの差があり、AIにプロ棋士が勝てなくなっている原因がある。藤井棋士は最善の一手ではAIに勝てないことを知っているのではないか。だから彼は局面で勝負する。将棋でも囲碁でも勝負を分ける局面が必ずある。ここで必要なのは盤上の戦い以上に、対戦相手の精神状態、対局室の空気感、時間の流れといった非将棋的な要素を掴み取ることだ。藤井棋士は将棋盤の上で戦っているのではなく、将棋盤を取り巻く“宇宙”を制しているような気がする。