【モスクワ時事】ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が旧ソ連の軍用神経剤「ノビチョク」系毒物を盛られたとみられる暗殺未遂事件が起きてから20日で1カ月となる。事件に関して説明を迫る欧米に対し、ロシアは「事件の背後に外国の情報機関がいる可能性がある」(ウォロジン下院議長)などと主張して反発。真相解明に向けた捜査は進む気配がない。

歩行可能、最近まで言語障害 ナワリヌイ氏が写真投稿

 ナワリヌイ氏は8月20日、西シベリアのトムスクからモスクワに向かう飛行機内で体調が急変し、重体となった。治療のためにドイツに移送され、ドイツ政府は今月2日、ノビチョク系毒物が使用されたと断定。ナワリヌイ氏は意識を取り戻し、15日に病院での写真を公開した。

 ナワリヌイ氏の陣営は17日、本人が宿泊したトムスクのホテルの飲料水のペットボトルからドイツの研究所が毒物の痕跡を検出したと公表。陣営幹部は「ドイツの専門家によると、飲料水のボトルに毒物が含まれていたわけではない。ナワリヌイ氏が毒物を盛られた後に飲んだボトルに(毒物の)痕跡が残った」と説明し、8月20日朝にホテル内で毒物を盛られたとする見方を示した。

 事件に関し、ナワリヌイ氏陣営は「軍用神経剤を扱えるのは国家機関のみだ」として、政権の関与を主張する。しかし、仮にプーチン政権批判の急先鋒(せんぽう)として内外で知られるナワリヌイ氏の暗殺に政権が関わったことが明るみに出れば、国際的な対ロ非難が極限まで高まるのは必至で、政権がそこまでする必要に迫られていたかに関しては疑問が残る。

 政治評論家の間では政権関与説のほか、ナワリヌイ氏が日頃批判していた実業界の人物が黒幕と疑う説やナワリヌイ氏を嫌悪する国粋主義者が実行した可能性などさまざまな見方が出ているが、政権が捜査に後ろ向きなため、何も明らかになっていない。ロシア誌エクスペルト(電子版)は17日、「いずれの説もどこか説得力に乏しく説明がつかない」と指摘。事件によって誰が得をしたかも判然としないと伝えた。