10月1日に菅内閣の首相補佐官に就任する柿崎明二氏(前共同通信論説副委員長)。これまでもメディア出身者が官邸入りした例はあったが、退社と同時に、政権の一員となるのは極めて異例のことだ。この柿崎氏の補佐官就任を巡って、共同通信が加盟社に対して、経緯を説明する文書を出していたことが「週刊文春」の取材で分かった。

 問題の文書は、共同通信社の常務理事編集担当(井原康宏氏)、編集局長(沢井俊光氏)、論説委員長(鈴木博之氏)名義で、加盟社編集、論説責任者宛に、9月29日付で出されたもの。文書によれば、柿崎氏は9月8日に告示された自民党総裁選の最中に、菅義偉官房長官(当時)から首相補佐官就任の打診を受けたという。

〈本日(29日)の閣議で弊社前論説副委員長の柿崎明二が10月1日付で菅義偉内閣の首相補佐官に就任する人事が決定されました。この経緯と、共同通信社としての見解をお伝えします。

 柿崎から、菅政権が発足した9月16日付で退職願が提出されました。それによると、自民党総裁選の最中、菅氏(当時内閣官房長官)から「首相就任の際には首相補佐官になって欲しい」と要請され、受諾したい旨の内容でした。〉

 柿崎氏はそれまで、論説副委員長として地方紙に配信する論説記事などを執筆していた。菅氏から補佐官就任の打診を受けながら、論説記事を執筆していたとすれば、記者の立場を利用し、菅氏に有利な方向へ世論を誘導していた可能性も否定できない。

 共同通信は、柿崎氏がこの数カ月間に執筆した記事について、調査を行ったとしている。

〈これを受け、直ちに柿崎を論説資料などの執筆から外すと同時に、ここ数カ月間に柿崎が執筆した記事の内容を点検しました。菅氏に対する公正性を疑われるような内容はありませんでしたので、人事決裁の上、9月16日付で総務局付、同30日付で退職とすることを承認しました。

 柿崎は菅首相と同じ秋田県出身で、菅氏が衆院議員に初当選した1996年頃から、信頼関係を築いてきました。政治記者として、与野党に幅広く人脈を広げており、菅氏はあくまで取材先の一人です。

 報道機関の重要な責務の一つは権力の監視です。共同通信社はこれまでも報道の公正性、独立性に十分に留意してきましたし、今後もその姿勢は変わらないことは言うまでもないところです。菅政権に対しても公平な立場で取材、出稿を続けます。〉

 共同通信に、柿崎氏が補佐官就任の打診を受けて以降も論説記事を執筆していたか、確認を求めたところ、その点には触れることなく、以下のように回答した。

「当該職員は月内での退職が決まっています」

 柿崎氏はかねて〈報道する人間は(略)権力監視の役割を担う〉(「論究ジュリスト2018年春号」)などと、記者としての責務を述べてきた。安倍政権以来、報道と権力との距離感が厳しく問われている中で、今後の共同通信の報道が注目される。

 10月1日(木)発売の「週刊文春」では、柿崎氏が首相補佐官に就任した経緯や柿崎氏の人物像、酒席での振る舞いなどを詳報している。