• 感染拡大とその脅威にあまりにも無頓着だと一般は受け止め
  • 「完全には安心できない状態かもしれない」と主治医も認める

トランプ米大統領とその支持者は、新型コロナウイルス感染で治療を受けた大統領の退院を好機と捉え、ホワイトハウスに5日戻ったトランプ氏の姿を来月の大統領選に向けた力強さと活力を象徴する勝利のイベントとして演出することを狙った。

  大統領が選挙遊説に復帰すれば「無敵のヒーロー」になるとした支持者の言葉をトランプ氏自身が持ち上げて見せた。また、トランプ陣営の広報担当は民主党の大統領候補、バイデン前副大統領について、新型コロナに感染したこともそれを打ち負かした経験もないと難癖をつけ、共和党のレフラー上院議員は大統領就任以前のトランプ氏の動画を細工し、同氏がウイルスを相手にプロレスの技をかけているかのような様子をツイッターで配信した。

  トランプ氏は退院の直前、自身の経験を引き合いに出し、新型コロナを恐れることのないよう国民に呼び掛け、その後、ホワイトハウスではあえてマスクを外し、カメラに向かってポーズを取った。

President Trump Recuperates Amid Questions About His Health And Campaign
マスクを外しポーズを取るトランプ大統領(10月5日)

  トランプ氏の振る舞いは最も熱狂的な支持者の感情を高ぶらせるかもしれない一方で、同氏が感染拡大とその脅威にあまりにも無頓着であるという一般の受け止め方を一層強固にする恐れがある。こうした脅威は、マクナニー大統領報道官を含めて大統領の側近さらに3人の感染が5日、新たに伝えられたことで鮮明となった。

  ABCニュースとイプソスが大統領の陽性判明後に実施した世論調査では、有権者の72%がトランプ氏について、感染の脅威を十分真剣に捉えていないと考えていることが分かった。

  トランプ氏が入院してからと、ホワイトハウスに戻ってきてからツイートした一連の動画からは、自分が米大統領として世界のほとんど誰もが望むべくもないような治療を受けられたことを認識している様子はうかがわれない。米国では2月以降、約21万人が新型コロナで死亡している。

退院のトランプ大統領、ホワイトハウスでマスク外す-カメラ意識

  民主党のマーフィー上院議員は5日のツイートで、献身的な医師団による治療や治験薬の投与、専用ヘリコプターでの送迎など米国民の大半が経験することのないような扱いを大統領が受けたことに言及するとともに、トランプ氏がウイルスを恐れることがないよう国民に呼び掛けたことで、さらに数千人が命を落とすことになるのではないかと批判した。

  トランプ氏は、全米ネットワークの夕方のニュースの時間帯に周到にタイミングを合わせ、退院のイベントが注目を浴びるように仕立てた。

  ホワイトハウスのバルコニーに立ち、トランプ氏はマスクを外して両手の親指を立てるしぐさを見せて、ホワイトハウスのサウスローンを飛び立つ大統領専用ヘリコプターに敬礼した。トランプ氏と政治的に対立する人々からは、大統領は息が荒いように見えたとの声が上がり、ツイッターでは「gasping(あえいでいる)」という単語がトレンドとなり始めた。

  トランプ氏は自身の回復が続くと賭けている形だが、病院に戻るようなことがあれば、健康不安をかき立てるとともに、ウイルス感染に翻弄(ほんろう)されているという一般の見方が強まることになるだろう。

  大統領の主治医のショーン・コンリー氏はトランプ氏の5日時点の回復具合を心強く感じているとしつつも、医療スタッフが「安堵(あんど)できる」ようになるには1週間を要すると述べ、「まだ完全に安心できる状態ではない可能性がある」ことを認めた。

原題:Trump Invokes His Own Bout With Covid as Voters’ Doubts Grow(抜粋)