世界的に収束がみえない新型コロナウイルス感染症に日本政府はどう対応したのか。8日、「民間臨時調査会」がまとめた報告書からは、初期に突き当たった一つ一つの政策判断をめぐり、政府と専門家の対立や、政治家同士の意思疎通の齟齬(そご)があったことが浮き彫りとなった。

 2月27日夕、安倍晋三首相は政府対策本部の会合で、「全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう」と突然の一斉休校を要請した。

 報告書には、会合前の午後1時半ごろ、萩生田光一文部科学相が首相官邸で「本当にやるんですか、どこまでやるんですか」と安倍首相を問い詰めたことが記された。反対する萩生田氏に対し、首相は「国の責任で全て対応する、それでもやった方がいいと思う」と述べたという。

 報告書はこの決定を、「学校給食や学童保育の拡充の問題など教育現場に混乱をもたらした」とした。政府の専門家会議の関係者も聞き取りに、「疫学的にはほとんど意味がなかった」と述べている。

 萩生田氏は「正しかったか間違っていたかの結論はまだ持っていない」としながらも、「一斉休校を契機にマスクがマストになった。大げさなことをいえば、世界的な感染拡大の防止の一翼を日本国としては先陣を切った」と述べた。

 安倍氏は「難しい判断だった。あのときは二つの理由があった。学校でパニックが起きる、それを防ぐ。もう一つは感染した子どもたちを通じて、おじいちゃん、おばあちゃんが感染するリスクもあった」。

 欧州各国では、遅くとも3月初めの時点で感染が相当に拡大していた。日本政府は3月後半になるまで、中国や韓国に対して行ったような強力な水際対策を取らなかった。報告書は「一斉休校」の判断が水際対策に尾を引いたと指摘。「もう少し早く実施できていれば、4月以降の日本国内の感染拡大を一定程度、抑えられた可能性があった」とした。

 遅れた原因として、官邸関係者は「同時期に行った一斉休校に対する世論の反発と批判の大きさに安倍首相がかなり参っており、更なる批判を受けるおそれが高く、中止措置を提案することができなかった」と振り返り、「あれが一番、悔やまれる」と述べている。

政府と科学者が対立

 緊急事態宣言の解除をめぐっては、政府と専門家(科学者)が対立し、最終的に専門家が折れる形になったことが明記された。

 宣言が延長された5月上旬、専門家会議のメンバーの多くは、解除の数値基準を「直近2週間で10万人あたり新規感染者数がゼロ、あるいは限りなくゼロ」と主張していたという。メンバーの一人は調査に「(宣言の継続が)1年くらいは当然という雰囲気だった」と述べている。経済への影響に対する危惧から、安倍首相は「東京都で解除できなくなる」、菅義偉官房長官も「一桁違うのではないか」などと難色を示したという。

 最終的には「直近2週間」は「直近1週間」に、数値は「0・5人未満程度」とされ、それを満たさない場合でも感染経路の不明割合などを加味して判断することで合意したことが明らかになった。

 官邸関係者は「専門家はきつくする方面では役に立つが、緩める方向では責任が持てない」と述べた。政治主導で解除を進めたことに、安倍首相は「あれは一応うまくいった。専門家は経済のことは考えないから、そこは政治家が責任を持つということ」と語った。

 政府が全国の世帯に配った通称「アベノマスク」について、官邸関係者は「総理室の一部が突っ走った、あれは失敗だった」と述べた。報告書も「問題の多い施策だった」と指摘した。(石塚広志)