東京・池袋で昨年4月、乗用車で母子を死亡させ9人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)は8日、東京地裁であった初公判で、「車に何らかの異常が生じ暴走した」と無罪を主張した。一方、検察官は、妻と長女を事故で失った松永拓也さん(34)の供述調書を読み上げた。松永さんが家族の写真を示しながら語り、今年1月に作成された調書の要旨は以下の通り。

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 自分の人生の全てともいうべき2人を失いました。真菜(当時31)が残した育児日記を眺め、毎日をいとおしく思い、絶望や後悔を繰り返しています。

 プロポーズの写真。真菜のうれし泣きを見て、一生をかけて幸せにしようと心に誓いました。

 莉子(当時3)の出産の時の写真。なんてかわいく、人の命は尊いのだろうと思いました。大切なこの子を、人生をかけて守ろうと思いました。

 育児日記には、日々の莉子の様子が書いてあり、真菜の愛情の深さがうかがえます。

 真菜がかざりつけなどをした1~3歳の莉子の写真。春の桜を見たり、夏祭りに行ったりした写真、紅葉、温泉の写真。私たち家族3人、ささやかながら四季を通じて幸せな生活をしていました。

 当たり前のように、毎年、花見ができると思っていました。莉子が温泉に入ったときのかわいらしい顔を見たくて、また温泉に連れて行きたいと思っていましたが、もうできません。

 4月19日の昼前、莉子が公園の滑り台で遊んでいる写真が送られてきて、昼休みに、いつもより早めにテレビ電話をしました。それが最後の会話になるとは、夢にも思いませんでした。

 警察からの連絡では容体は教えてもらえず、病院に向かうため電車に乗っている間は、地獄のような時間でした。病院に着くと、変わり果てた姿で、美しい真菜の顔は傷だらけ。看護師に、莉子の顔は見ないほうがいいと言われました。どれだけ痛かったのか、無念だったのかと、涙が止まりませんでした。

 莉子の遺体を修復するか尋ねられましたが、数日かかるとのことで、1人にするのはかわいそうなので依頼しませんでした。

 火葬までは、自宅で2人と過ごしました。2人の間に横たわって手をつなぎました。食事中も、莉子は3人で手をつなぐのを喜んでいました。手は冷たく固く、握っても握り返してくれることはありませんでした。私は2人に話しかけ続けました。

 通夜のあと、莉子に「ノンタン」の絵本を読み、「お父さんは莉子が大好きだったよ。お母さんと手をつないで離さないで」、真菜には「真菜と出会えて幸せだったよ。莉子を天国に連れて行って」と言いました。2人の棺を往復しながら、「ありがとう、愛しているよ」と繰り返しました。

 これだけの事故を起こして、高齢ドライバーだからと軽く終わらせたくありません。皆さんの署名に感謝しています。希望にあふれた2人が命を失った無念、恐怖、痛み、苦しみから、厳しい処罰をお願いします。実刑でできる限り長い間、刑務所に入ってほしいです。軽い罪の前例を作りたくありません。(河崎優子、新屋絵理)