10月8日の自民党の憲法改正推進本部の役員会で、起草委員会で具体的な改正案条文をまとめる作業が開始されることになった。同じ時期に、日本学術会議の会員候補6名が任命拒絶される事件が話題を集めた。全く別の出来事のようでいて、結びついている。

 事件を大きく取り上げたメディアが、任命拒絶された6名全員が2015年安保法制に反対していた、と報じたことを発端に、6名の一人である憲法学者を含む法学者たちは、自ら政権を批判する言説を表明した。それを見て2015年当時の構図そのままに政府批判を始めた多くの人々も、あたかも安保法制成立の際の喧騒の場外延長戦が起こったと考えて、事件を見たわけである。

 今回の事件をめぐっては、3年前に日本学術会議が軍事研究禁止の声明を出していたことも改めて注目を集めた。声明をけん引したのは、同会議「安全保障と学術に関する検討委員会」だが、その中心には特定傾向を持つ法学者や政治学者がいた。会員任命について官邸との事前折衝を忌避した結果、任命拒否を引き起こした同会議前会長・京都大前総長は、わざわざ自らこの委員会の委員を務めてもいた。その意味で、日本学術会議問題の背景には安保法制をめぐる党派的分断があり、それは根深く憲法問題に関わっているのである。

 任命拒否をめぐり「少数派を排除するな」という声も上がったが、その叫びは、そのまま多数派の意見だけで憲法を改正するな、という主張につながる。安倍政権時代の自民党は、「少数派」の野党に改憲に向けた協議に加わってもらうことを重視しすぎて、改憲に着手できなかった。菅政権は、それをどう克服するのか、妥協するのか。今から二年弱の間に、自民党総裁選挙と衆参両院の選挙が行われる。世論の支持を狙った党派的な駆け引きは、今後も続いていくだろう。

 私としては、こうした時にこそ、あらためて9条改憲の意味を整理する重要性を強調したい。まじめな憲法論を、消し去ってはいけない。