【ニューヨーク=上塚真由、ワシントン=黒瀬悦成】過激な陰謀論を唱える米国生まれの集団「Qアノン」の主張がインターネット上で拡散し、ソーシャルメディア各社が規制強化に乗り出している。根拠不明の陰謀論はいつの時代も存在してきたが、トランプ米大統領を熱烈に支持するQアノンは、新型コロナウイルスの社会不安に乗じ、勢力を拡大。発信方法を多様化し、監視の目をかいくぐっている。
トランプ氏自身は15日、南部フロリダ州で開かれたNBCテレビ主催の対話集会で、Qアノンの主張を否定することを拒否。8月にもQアノン信奉者らについて「よく知らないが、私のことを好きで、米国を愛する人たちだ」と比較的好意的な態度を示した。11月の大統領選で劣勢を強いられる中、勢力を伸ばすQアノン信奉者たちの支持をつなぎとめたい思惑が見え隠れする。
米メディアによると、Qアノンがネット上に出現したのは2017年秋ころ。正体不明の「Q」というハンドル名でネット掲示板に書き込み、それを支持する人たちがQアノンとして集団を形成。アノンは、アノニマス(匿名性)の略だ。
彼らによると、民主党の大物議員や財界の有力者が「ディープ・ステート」(影の政府)を支配し、国際的な児童買春などの犯罪に関与していると主張。トランプ氏はその影の政府を暴くために選ばれた救世主としてあがめられている。
事実無根な陰謀論を流布するが、Qアノン信奉者に通底するのは主要メディアやエリート層への反発だ。
米ロサンゼルスに住むラッパーのニック・ニトーリさん(32)もその一人。かねてから「月面着陸はなかった」などといった陰謀論に興味があったが、Qアノンを知り没頭するようになった。毎日4~5時間を費やしてネットで陰謀論を検索している。ニトーリさんは、「トランプ氏は、エリート層や主要メディアに逆らっている。だからこそ信用できる。トランプ氏は、児童買春を目的とした人身売買組織を止めてくれる存在だ」と話す。
15日の対話集会でトランプ氏は、司会者から「民主党は悪魔崇拝の小児性愛集団だという陰謀論を否定するか」と聞かれた際、「Qアノンのことはほとんど知らない」などと述べるにとどめた。
米メディアによると、今年に入り、新型コロナで自宅待機を強いられ、ネットの利用時間が増えたことなどを背景にQアノンの勢力が急伸長。今年夏時点で、ネット上の関連サイトは数百万に及んだという。
一方、Qアノンをめぐって、米連邦捜査局(FBI)は5月、「潜在的な国内テロの脅威」と指摘する文書を発表し、Qアノンが計画や実行に絡んだ暴力事件が少なくとも2件あるとした。また、9月にはQアノンの信奉者の間で、米西海岸で起きた山火事をめぐり「極左過激勢力が起こした」とするデマが拡散。当局に通報が殺到し、消火活動が妨げられるなど実社会への被害も出始めている。
Qアノンに触発された家族を救出する運動も始まり、ネット上の「被害者の会」に参加する人は約3万人にも上った。
こうした中、注目されるのは、Qアノン拡大の温床となってきたSNS各社の対策だ。ツイッターは7月に7000余りの関連アカウントを停止。フェイスブック(FB)も8月に暴力を助長する内容を、今月6日には全ての関連アカウントを削除すると発表した。
ただ、規制をかいくぐるため、SNS上ではページの名前を「Q」から「cue」と書き換えて発信したり、子供の安全を訴えるグループなどのハッシュタグを利用して、陰謀論を拡散させたりする動きも目立っている。
SNS各社に対し「Qアノンの誕生から数年にわたって放置してきた責任は重い」(米メディア)と厳しい目が注がれるが、ネット上で短期間で量産されるため、対策は追いついていないのが現状だ。