菅義偉首相の初めての所信表明演説は、政権が目指す政策を具体的に盛り込み、「実務型」の首相らしさが色濃く表れた内容となった。憲法改正についても踏み込んだ表現を避け、「理念重視」の印象が強かった安倍晋三前首相とは対照的だ。

菅首相「脱炭素社会」宣言 コロナ対策と経済両立―学術会議触れず・所信表明

 演説では、デジタル社会の実現や携帯電話料金の値下げといった個別の政策が並ぶ一方、故事や偉人の名言の引用はなし。首相官邸幹部は「首相は自分の言葉で伝えたいという思いが強く、あえて使わなかった」と明らかにした。

 不妊治療に悩む夫婦とのやりとりや、東日本大震災の被災地として訪れた福島県での地元中高生とのエピソードはあるものの、情緒的な表現は少なく、淡々としている。目指す国家像が見えづらいとも指摘される首相だが、政府高官は「個々の政策を着実に実行し、成果を早く国民に届けるのが首相の政治姿勢だ」と説明している。

 憲法改正に関しては、首相は「各党が建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待する」と述べるにとどめた。安倍氏が今年1月の施政方針演説で「未来に向かってどのような国を目指すのか、案を示すのは国会議員の責任だ」と訴えたのと比べ淡泊で、温度差がある。

 演説作成の過程では、各省庁が個別に作る「短冊」と呼ばれる段落をまとめる形にせず、「首相自身がこだわりを持って吟味した」(関係者)という。文字数は約7000字で、平成以降の所信表明演説の平均7003字とほぼ同じ分量。