ソフトバンクグループの孫正義社長は、スタートアップ投資家としての眼力と名声を取り戻しつつあるようだ。出資する中国のオンライン不動産取引プラットフォーム企業、貝殻找房(ベイク、KEホールディングス)は新規株式公開(IPO)で投資価値が4.7倍に膨らむなど、いくつかの成功例が出始めた。業績回復への足掛かりになりそうだ。

  ソフトバンクGのビジョン・ファンドは昨年11月、ベイクに13億5000万ドル(1400億円)出資した。8月に米国市場に上場し、保有する預託株式(ADS)の価値は9月末時点で64億ドルと上昇率は375%に達した。 

  ソフトバンクGは9日、7-9月期(第2四半期)決算を発表する。説明会では、こうした足元の投資成功例について言及するかもしれない。

  孫社長はこれまでアリババ・グループ・ホールディングヤフーなど新興インターネット企業の発掘に成功し、優れた投資家として名声を得てきた。しかし、シェアオフィス運営の米ウィーワークの経営ではつまずき、2019年度の決算で記録的な損失を計上すると、市場では孫社長の眼力に対する疑念が広がった。

  SBI証券の森行真司アナリストは、ソフトバンクGの投資事業は「最悪期から戻ってきている」と分析。ネット関連企業への投資は「一つ当たれば、大きなリターンがあり、ソフトバンクGにとってはアリババのような企業を一つ見つければいい」と話した。

  孫社長は10月29日、国内通信子会社のソフトバンクがオンラインで開催したイベントで講演し、ビジョン・ファンドの投資先100社の中から複数のスタートアップを紹介し、有望企業の1社としてベイクを取り上げた。

  ベイクについて「今年上場したものすごい会社で、ものすごい急成長している。既に利益も莫大(ばくだい)に上げている」と説明。人工知能(AI)を使って中国のほとんどの不動産代理店が登録、アクセスしており、「データベースとして既に2億3000万件の家が入っている」と興奮気味に語った。

  SBI証の森行氏は、ベイクへの出資を「うまく探し当てた」と評価する。大きな網をかけるのがソフトバンクGの戦略で、大きければ有望企業が網にかかる確率も高く、「ビジョン・ファンドを作らなければできなかったことだ」とみている。

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ブルームバーグが集計したアナリスト3人の予想では、ソフトバンクGの7ー9月期の純損益は平均値で1503億円の黒字となったもよう。前年同期は7002億円の赤字だった。

  ソフトバンクGはここ数四半期、ビジョン・ファンドの投資先価値の下落に苦しんできた。8月には営業利益の開示を取りやめ、「投資損益」の開示を始めると発表。これまで営業利益には投資有価証券の売却による実現損益や投資先からの配当金などが含まれず、戦略的投資持ち株会社としての連結業績の適切な表示には有用ではないと判断したという。

  業績不振と株価の急落に見舞われた同社は、ビジョン・ファンドによる投資活動の抑制に加え、半導体設計のアームやソフトバンクなど4兆5000億円規模の子会社株式の売却、その一部を使った合計2兆5000億円の自社株買いを発表した。投資家の信頼が回復し、株価は2000年以来、20年ぶりの高値を付けた。

  大和証券の安藤義夫アナリストは、「足元では投資家が新型コロナ慣れし、ユニコーン企業の株価は上昇中」だと指摘。守りの資産売却が一巡し、「投資家は未知の世界をソフトバンクグループが誘導することを期待している」とみる。

  ソフトバンクGは過去数カ月間、何度か市場に驚きを与えた。ビジョン・ファンドのラジーブ・ミスラ最高経営責任者(CEO)は10月、「ブランク・チェック・カンパニー」と呼ばれる特別買収目的会社(SPAC)の設立計画を明らかにした。SPACは主に未公開の有望企業を買収し、将来的に上場させることが目的だ。

  また、アマゾン・ドット・コムズーム・ビデオ・コミュニケーションズ、電気自動車(EV)メーカーのテスラなどテクノロジー関連の米上場企業25社に対し、6月末時点で約39億ドル投資していることも判明した。ブルームバーグの試算では、その後の株価上昇で7-9月期に5億7000万ドルの含み益が発生し、上昇率は15%とナスダック総合指数の11%を上回っている。

  SBIの森行氏は「現金を寝かしておくのはもったいない」と述べ、リスクは低く、流動性の高いものに投資することはユニコーンへの投資に比べリターンは低いが、合理的だと言う。

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