[メルボルン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 国同士が分断し、孤立主義へと向かう今の世界において、ほんの少しでも国家間の協力関係が築かれるなら朗報だ。アジア太平洋地域の15カ国間で貿易を円滑化する「地域的な包括的経済連携(RCEP)」は、この低いハードルをクリアした。控えめな前進とはいえ、世界貿易が置かれた悲しい現状の中では貴重な動きだ。

RCEPはこの週末に署名に至ったが、交渉には8年を要した。RCEPにはいくつか象徴的に重要な要素がある。対象となる経済圏は世界経済・人口の約3割を占め、他のどんな貿易協定よりも大きい。

アジア地域で競合する中国、韓国、日本が、この種の協定に共に参加したのも初めてのことだ。インドは交渉の途中から離脱したが、インドネシア、オーストラリア、タイその他の国同士の絆を深めたことは、決して小さな功績ではない。

経済的な影響という面では、さほど目覚ましい成果は得られていない。詳細については未発表の部分も多いが、関税と輸入割り当てが撤廃されるのは、域内の輸出・輸入品目の65%にとどまる見通しだ。他の課税や制限措置については、20年以内に約90%の品目について緩和するとしており、環太平洋連携協定(TPP)の水準を下回る。

より重要なのは、加盟国のサプライチェーン同士の連携強化を狙い、いわゆる共通の原産地規則を設けたことだ。ピーターソン国際経済研究所が6月に示した試算によると、RCEPによって世界の経済規模は約2000億ドル拡大し――つまり全体に占める比率は小さいが――、加盟諸国の国内総生産(GDP)は恒久的に0.2%押し上げられる。

限定的な進歩に感じられるかもしれないが、諸外国の状況と比較すれば際だった前進と言える。4年前に欧州連合(EU)離脱を選んだ英国は、年末に正式な離脱を控えてまだ、EUとの自由貿易協定の合意に苦心している。

次期米大統領就任が確実となったバイデン前副大統領も、前政権から引き継ぐ対中貿易戦争の状況および同盟国との関係悪化を修復する必要がある。これら諸国が喫緊の課題を解決するころ、アジア・太平洋諸国はもっと強力な同盟を築いているかもしれない。

●背景となるニュース    

*アジア・太平洋の15カ国は15日、世界最大の自由貿易圏となるRCEPに署名した。ハノイでテレビ方式の首脳会議を開いた。

*署名したのは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の10カ国に加え、中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド。これら諸国の経済・人口規模は世界全体の約3割を占める。

*RCEPの狙いは、多くの地域にわたって関税を段階的に引き下げること。直ちに関税引き下げの対象となる品目、国の詳細は示されていない。

*中国、日本、韓国の3カ国が単一の自由貿易協定に加わるのは初めて。インドは昨年11月に交渉から離脱したが、ASEAN諸国首脳は復帰を可能とする措置を設けた。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)