共同記者発表に臨む茂木外相(右)と中国の王毅国務委員兼外相(24日、東京都港区の外務省飯倉公館)=代表撮影

茂木敏充外相と中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は24日、都内の飯倉公館で会談した。日本が安全保障での対中警戒を示すなか、中国は経済面の協力を打ち出して日本に秋波を送った。中国側には米国が政権移行の「政治空白」期に日本を引き寄せる思惑がありそうだ。

王氏は会談で「感染症のもと、初の対面外交を実現したのは時宜にかなっており、有意義だ」と呼びかけた。「世界が激動と変革の時期に入っている。中国と日本は一衣帯水の長期的協力のパートナーだ」と訴えた。

新型コロナウイルスの警戒で、王氏は中国に帰国後は一定期間、待機を強いられる。わざわざ来日して「一衣帯水のパートナー」と持ち上げたのは、米中対立下で日本が重要性を増すからだ。

米国では当選を確実にしたバイデン前副大統領への政権移行が始まっている。とはいえ新政権の具体的な政策が固まるのはまだ先だ。各国は米国の外交方針が流動的ないま、自国に有利な国際環境づくりを目指す。

24日の外相会談で日中は経済面の協力を確認したが、安保を巡る溝は埋まらなかった。

茂木氏は共同記者発表でビジネス往来の11月中の再開を表明し「日中経済の活性化に資するとともに相互理解の促進にもつながる」と強調した。王氏も両国の経済再生の重要性に言及した。2021年に閣僚級の経済対話を開くと説明し、環境、医療、電子商取引(EC)の分野を列挙した。

沖縄県尖閣諸島を巡っては対立した。茂木氏は会談で中国に「前向きな行動」を求めた。王氏は共同記者発表で「事実を紹介する」と切り出し「日本の漁船が絶えず釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の敏感な水域に入っている」と反論した。

日本にとって対中関係の最大の焦点は安保だ。菅義偉首相はバイデン氏の当選が確実になるとすぐに電話で話した。米国の日本防衛義務を定めた日米安保条約5条が沖縄県尖閣諸島に適用されるといち早く確認した。

17日にはオーストラリアのモリソン首相が来日し、菅首相と会った。日豪は共同声明で東シナ海や南シナ海の現状に「強く反対する」と表明した。中国の海洋進出を念頭に、米国の政権が代わっても安保の協力を続ける方向性を明確にした。

対中包囲ともいえる流れに中国は反発してきた。日豪を「中国を理由なく非難し、乱暴に内政に干渉した」と批判した。日豪の安保協力には中国共産党系メディアの環球時報が1面トップで「準軍事同盟か」と伝えた。

今回の来日を巡り、中国は当初、10月を打診した。米大統領選を前に先手を打つように見えたが日本は応じなかった。10月は東京で日米豪印の外相会談を開く予定を設けていたためだ。日本は安保で先に日米豪印の軸を固める狙いがあった。

一方、中国側の日本への姿勢で透けるのは巨大な経済力をてこに対中包囲網を緩める戦略だ。

今回、王氏が訪問するのは日本と韓国だ。日韓はどちらも最大の貿易相手国が中国になる。経済面で中国と対立するのは得策ではない日本には、貿易などでの協力を持ちかけ融和を図った。

15日には日中は東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。一部の中国メディアは「日中韓FTA(自由貿易協定)の協議を加速すべき」と論じた。

習近平(シー・ジンピン)国家主席は20日、環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加について「積極的に考える」とも表明した。日本を含めアジアで経済の連携を進める方針を立て続けに発信してきた。

今回の外相会談でも中国は習氏のTPPに関する発言を紹介した。日本産食品の輸入など日中間で経済協力も確認した。

日本は中国を安保でけん制し、中国は日本に経済カードで接近する。日本が両面で有利になるような外交は難しい。今後、米中対立がさらに激化すれば、米中がともに日本に踏み絵を迫る厳しい展開もあり得る。(加藤晶也、北京=羽田野主)