きのうから補正予算の規模に絡んだ報道がちらほらと出ていた。11月30日にこの欄で「大事なのは第3次補正と本予算の規模」と指摘した。新型コロナの影響で日本経済には現在、潜在的なGDPに比べて40兆円程度のギャプがある。いわゆる需給ギャップのことだ。これを埋めるためには第3次補正予算で40兆円規模の予算を組む必要があると指摘した。私個人の見解ではない。菅内閣の内閣参与に就任した高橋洋一氏(元財務省高官)の受け売りに過ぎない。これを書いた当時、国費負担(いわゆる真水)はせいぜい10兆円から20兆円程度、事業規模が30兆円から40兆円程度だろうと考えていた。それが「財政支出40兆円、事業規模73.6兆円」となった。ちょっと驚いたのだが、よくよく見るとこの予算、大きいのだがやっぱり見掛け倒しでもある。
菅首相はこのところ国会答弁でも記者会見でも、官僚の書いたメモを棒読みするケースが多く、トップリーダーとしての指導力が見えないと、多くのメディアが批判している。公衆の面前に立って大向こう受けするような演説は得意ではないのだろう、記者会見の対応もみるからにそっけない。半面、水面下での調整や決断は即断即決、切れ味は鋭い。今回の予算編成でもそんな一面に期待を寄せてみたのだが、結果は可もなく不可もなしといったところか。いや、思い切った決断をできなかったという点では多少残念でもある。新型コロナ対策で政府はこれまで第1次、第2次と矢継ぎ早に補正予算を組んできた。その規模は国費ベースで57兆円。事業規模ベースで230兆円規模になる。今回の補正でこれに30兆円と73.6兆円が加わる。合計すれば87兆円と300兆円、それなりの規模になる。
問題は財政支出40兆円の内訳。国費は20兆円が第3次補正で10兆円は来年度予算。残り10兆円は財政投融資が負担する。例えば大学の研究予算を国費で賄うか、財投にするか大きな違いがある。結果がわからない基礎研究を財投で手当てすれば、学者は誰も手を出さないだろう。コストとパフォーマンスが合わないのだ。経済対策で一番大事なのは返済の義務がない国費をいかに投入するかだ。今回の補正では国費分は、個人的に想定した上限に届いた程度であり、20兆円の受給ギャップは残る。財務省の抑え込みが成功したとしか思えない。結局は見かけを保ちながら、政権内のパワーバランスを崩さないように調整しているだけなのだろう。コロナで落ち込んだ民需、中小零細企業や個人営業を中心に先が見えない現実生活の困窮。そんな悲惨な実体に思い切って手を差し伸べようという強い意思はほとんど見られない。危機に直面しても政権内部で横行するのは“陳腐化”した予算編成手法だけである。経済危機は深まるだろう。