次世代通信規格「5G」の基地局開発競争で、日本の通信関連企業に巻き返しの機会が訪れている。日本勢はフィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソン、そして中国の華為技術(ファーウェイ)といった大手に後れを取ってきたが、ファーウェイ機器の除外を米国が同盟国に求めたことで風向きは一気に変わった。

  NTTの澤田純社長はブルームバーグのインタビューで、米国のファーウェイ排除を「チャンス」と言明した。同社は6月、5G通信網の共同開発などを目的としてNEC株5%を取得し資本関係を構築した。澤田氏は5G基地局開発の戦略について「世界の信頼し合えるパートナー企業と組んでいきたい」と語った。

NTT CEO Jun Sawada Interview As The Company Eyes Asset Sales After $40 Billion Docomo Buyout
Photographer: Shoko Takayasu/Bloomberg

  調査会社トレンド・フォースによると、5G基地局は通信機器大手3社で約8割を占める寡占市場だが、米国のファーウェイ除外を機に勢力図は今後、大きく変わると予想される。友好国の企業と連携せざるを得なくなった米国やパートナー諸国にとって、NTTやNEC、富士通など日本の通信システム企業は魅力的に映る。

  一例として、英国政府が来年9月末までにファーウェイの5G機器を導入禁止にすると決めて注目を集めたことがあった。国内無線通信網サプライヤーの多様化のため、英国政府は2億5000万ポンド(約350億円)を投じる計画を発表し「同じ考えを持った国々」との協力を表明。こうした動きを踏まえて、NECは11月に英国に事業開発拠点を設立、5Gのグローバル展開の加速に向けて動き出した。

  日本政府の後ろ盾もある。5Gネットワークの整備促進を含むデジタル化を成長の柱の1つに位置づける菅義偉首相は、12月4日夜の記者会見で1兆円規模を確保する方針を示した。

  11日の東京株式市場で富士通株は一時1.8%上昇、NECは0.9%上昇。菅政権のデジタル化推進を追い風に、年初来ではそれぞれ35%、20%程度の上昇率となり、東証株価指数(TOPIX)のパフォーマンスを大きく上回っている。

鍵握るオープンモデル

  大手通信の寡占を打破すべく、無線アクセスネットワークの開発のオープン化に向けてドイツで立ち上げられたのが「ORAN(Open Radio Access Network) Alliance」。基地局構築にさまざまなメーカーの参入を促して開発コストの抑制を目指す。

  NTTドコモは設立以来のメンバーだ。日本勢ではKDDIやソフトバンク、ことし参加した楽天モバイルなどの通信キャリアのほか、富士通やNEC、京セラ、東芝、住友電気工業など、ネットワーク開発のあらゆる部分で関連するメーカーやシステム企業が名を連ねる。KDDIと楽天モバイルは10月の年次総会でボードメンバーに選定され、同枠組みのけん引役となった。

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  オープン化の流れはサプライヤーの成功も左右する。 富士通の時田隆仁社長は「オープン化の厳しい競争の中で、どれくらい勝ち残れるかということは大きな挑戦」とブルームバーグの取材で語った。「数兆ドル規模の市場のうちのわずかでも、富士通にとって大きな機会となることは間違いない」(時田氏)。6月には米通信会社のディッシュ・ネットワークが5Gネットワーク構築に向け、富士通からオープン化仕様の無線装置を大量調達すると発表した。

  ORANについて、株式市場には慎重な見方もある。SBI証券の森行真司アナリストは、コンセプト自体は評価すべきだが、ノキアやエリクソン側も黙って見ているとは限らず、値下げなどで陣営を崩しにくる可能性もあるとみている。

  すでに欧州の大手2社は、次の規格「6G」開発に向けて歩み始めた。ノキアは欧州連合(EU)が資金を拠出するプロジェクト「Hexa-X」を率いる。エリクソンをはじめ、米インテルやドイツのシーメンスなど多くのテクノロジー企業が参加する。彼らの背中を追う日本勢が勝負を制するには、通信インフラ開発を取り巻くあらゆる分野でシェアを奪わなければならない。