[東京 14日 ロイター] – 12月日銀短観では、経済活動が戻りつつある状況を反映して景況感が回復したが、将来の経済低迷を示唆している、との見方も出ている。労働力不足という根本的な課題が浮き彫りになっているほか、資本装備につながる設備投資が悪化の一途をたどっているためだ。専門家の間では、このままでは潜在成長率がゼロ近辺まで低下しかねないと危惧する声も上がっている。
<労働力不足の影響が顕著に>
今回の短観で鮮明となったのは、コロナ禍の後遺症といった側面ではなく、もともと日本経済の抱える弱点が一層浮き彫りとなったいう点だ。
その一つが労働力不足。少子化対策に手をつけてこなかったため、雇用の不足感が続いている。今回の短観で専門家が驚いたのは、雇用の不足感が製造業・非製造業を問わず強まっている点だ。雇用判断DI(全規模全産業)は、コロナ感染拡大以降いったん不足感は緩和したものの過剰超過に転じることなく推移、12月はマイナス10と不足超過幅が拡大した。
「世間の印象とは異なり、コロナ第3波とは関係なく人手が不足している状況にあることが改めて浮き彫りになった」(みずほ証券・チーフエコノミストの小林俊介氏)といった声が複数聞かれた。
コロナ発生前には1.7倍程度まで上昇していた有効求人倍率は、最近では1倍程度まで低下し、労働需給の逼迫感は少し和らいでいる。それでもリーマンショック後に0.5倍程度で推移していた時代とは比べものにならないほど、労働力不足の状況は深刻だ。
背景には、企業側の欲する人材が変化していることもありそうだ。最近ではスキルある人材確保への動きが強まっているため、働き手の置かれている状況とのミスマッチが拡大している、と小林氏は分析している。
企業は「ポストコロナ時代もにらみ、一層労働力不足が見込まれる将来に備え、先んじて動いている」(第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生氏)と指摘されている。求めているのはスキルある人材だが、そのような人材はまだ少数。雇用市場ではますますミスマッチが拡大しており、当面、人材不足の時代は続きそうだ。
<大企業の設備投資、12月段階の落ち込みは異例>
一方、設備投資は大企業での低迷が顕著となっている。短観は設備過剰感が緩和しつつあることがうかがえる内容だったが、過剰感の水準は東日本大震災後と同程度と、解消には時間がかかりそうだ。
このため設備投資意欲も停滞を余儀なくされており、大企業の年度計画が前年度比3.9%減少(全規模全産業)と当初計画から右肩下がりとなっている。12月段階で前年度比減少に落ち込んでいるのは異例の事態だ。2000年代以降の平均では概ね前年度比10%超の伸び、過去3年間でも5%超の伸びを示してきたことからみても、落ち込みは深刻。これは機械受注統計で10─12月は前期比減少が続く見通しとなっていることとも整合的だ。
SMBC日興証券・チーフマーケットエコノミスト・丸山義正氏は「日本銀行の政策委員がこれまで強さを強調してきたソフトウェア・研究開発を含む設備投資額(除く土地投資額)で見ても、大企業全産業の計画はマイナス圏に沈んでいる」と指摘。設備投資が強いとは主張できないとみる。
世界規模でみると、これまでの生産停滞に伴い在庫が払底する状況に近づいていることから、本来であれば製造業を中心に生産増と設備投資の回復感があってもおかしくない。しかし「大企業からは業績の悪化する中、不要不急の設備投資案件は先送りするとの声が聞かれた」(日銀調査統計局経済統計課長の永幡崇氏)というように、収益悪化で動きようがないといった事情も絡んでいる。
ポストコロナ時代を展望すれば、需要の変化やデジタル化・脱炭素化への対応も含めて投資は必要であり、既存の設備の陳腐化も予想される産業もありそうだ。ただ、デジタル化投資が主役となったとしても「その金額は能力増強投資などより小規模であり、設備投資が成長率のけん引役になりにくい」(熊野氏)という。生産性向上につながる投資の効果で、潜在成長率が向上していくには、まだ時間がかかりそうだ。
<潜在成長率の低下、リーマンショック並みに>
こうした動きが続けば、生産性向上をてこに潜在成長率を引き上げていくという政府の戦略は機能しない。熊野氏は「この先の潜在成長率が心配だ」と懸念を示す。
内閣府によると現在の日本の成長率は0.7%程度だが、小林氏は「おそらく資本装備率が低くなり、先々の成長率はリーマンショック時並みのゼロ近傍まで低下を余儀なくされる」と見通している。