集団免疫の獲得を柱としたスウェーデンの緩いコロナ対策が転換されるようだ。先週の17日、国民向けのテレビ演説でグスタフ国王(74)が「これほど多くの死者が出たという事実は失敗以外の何物でもない」と発言したからだ。これを受けてロベーン首相は18日、公共交通機関での混雑時のマスク着用を初めて推奨。先週はじめにはストックホルムの学校に対して、「ただちに13~15歳の生徒への授業を遠隔に切り替えるよう」要請していた。感染拡大を容認しつつ、集団免疫の獲得でウイルスの感染拡大阻止を狙った同国のユニークなコロナ対策は、国王の一言で方針転換を余儀なくされそうだ。日本に当てはめても意味はないが、象徴天皇ではあり得ないやり方だ。いずれにしても国王に対する信頼感があるから成り立つやり方だろう。日本でグスタフ国王の役割を果たすのは誰だろうか。

英BBC放送によると「スウェーデンはパンデミック中、全国的なロックダウンを一度も行っていない。その結果、新型ウイルスの感染数は35万件弱、死者は7800人以上と、スカンジナビア諸国の中では突出して大きな被害が出ている」と伝えている。感染者と同時に死者の数が北欧諸国の中でも抜きん出て大きいことが、国王の怒りを買った。緩やかな対策を取り続けてきた結果だが、だからといって同国の経済が近隣諸国に比べて活況だったかといえば、そんなことはない。グローバルにつながっている現在の経済環境の中では、一国がロックダウンを回避しても経済的影響はそれなりに被るのである。個人的には集団免疫を柱とした同国のコロナ対策に注目していた。国王ならずとも現時点でこの方式は「失敗だった」と批判されても仕方ないと思う。同国の死者数は、他の北欧諸国の死者を全て足した数よりも多い。死者の多さが「失敗」を雄弁に物語っている。

集団免疫を主導した公衆衛生庁の疫学者アンダース・テグネル氏は、いま何を考えているのだろうか。国王の発言に対するコメントは見当たらなかったが、BBCは「11月、BBCの取材に対し、同国の戦略は法的な制限と自主的な行動の組み合わせだ」と説明していたとある。国民から信頼されているという同氏は緩やかな規制でも、国民の自主性でコロナ危機は乗り越えられると踏んでいたのかもしれない。日本の対策もスウェーデンに似たところがある。自粛という名の国民的な自主性がコロナ対策の柱だ。自粛と医療関係者の踏ん張りが死者を抑え込んできた直接的な要因だろう。その2つの壁が乗り越えられそうになった時、政治も官僚も学者もメディアも迷走を始めた。ワクチンだけではパンデミックは終わらない。局面の大転換を図る指導力が必要だ。