【モスクワ=工藤武人】アゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ自治州を巡る大規模戦闘で、アルメニア軍に圧勝したアゼルバイジャン軍の戦術が、軍用無人機(ドローン)を駆使した運用事例として注目を集めた。ロシアが輸出を推進する防空ミサイル網も突破され、露軍は衝撃を受けている。

「歴史的勝利」

 9月下旬から44日間に及び、双方に6000人近い死者を出した戦闘は11月10日に停戦が発効。アゼルバイジャンがアルメニア側から領土の大半を奪還した。

 アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は12月18日、オンライン形式で開かれた旧ソ連諸国の独立国家共同体(CIS)首脳会議で、「戦闘はもはや過去形で語るものになった」と「歴史的勝利」を誇った。対照的に、アルメニアのニコル・パシニャン首相は、父親が亡くなったことを理由に欠席した。

 ソ連崩壊前に勃発した紛争では、ロシアとの同盟関係を生かしたアルメニアが優勢だった。今回の大規模戦闘で、アゼルバイジャンがこれまでの劣勢を覆したのは、最新兵器を積極的に導入した成果と言える。

トルコから

 アゼルバイジャンとアルメニアは従来、兵器をロシアに依存してきた。だが旧ソ連製の旧式兵器も多いアルメニアに対し、アゼルバイジャンはイスラエル製やトルコ製の比重を高め、多角化を図っていた。

 今回の戦闘では、イスラエル製の自爆型ドローン「ハーピー」や新型ミサイルを多用した。また、米政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)が今月公表した分析によると、トルコ製の攻撃ドローン「TB2」の活躍が目立ったという。

 作戦面では、特にトルコの影響が色濃かったという。アゼルバイジャンは、第2次大戦直後に旧ソ連が開発した複葉機を無人機に改造して「おとり」に使い、アルメニア側の防空網をあぶり出した。その後、攻撃ドローンなどで防空設備を破壊し、地上部隊が進攻した。CSISは、「従来型兵器と新型兵器を巧みに融合させることが、現代の戦場では重要だ」と指摘する。

 戦闘での被害を分析した専門家グループによると、アルメニア側は地対空ミサイル「S300」など26基、戦車「T72」130両以上が破壊された。いずれも武器輸出大国ロシアの看板商品だ。アゼルバイジャンのドローンの損失は25機にとどまったという。

波紋

 ロシア製兵器は、リビアやシリアの戦場でも苦戦を強いられており、周辺国にも波紋を起こしている。ロシアに南部クリミアを併合されたウクライナは昨年、トルコとTB2の購入契約を結び、国内生産に向けても協議しているという。

 有人機に比べてコストを低く抑えられるドローンの有効性が証明され、「小国同士の軍事衝突が増える可能性」(米ブルームバーグ通信)も指摘される。

 米国との本格的な戦闘への備えを最重視するロシアは、偵察用ドローンは配備しているものの、攻撃ドローンの開発は後回しにしてきた。ニュースサイト「ガゼータ・ルー」は、「ロシアはドローン革命で眠り続けている」と指摘し、攻撃ドローンの開発推進を求めた。