アメリカの大統領選挙はとうとう、ツイッター社によるトランプ大統領のアカウントを永久に停止するという事態に発展した。6日に実施された上下両院の合同会議にトランプ支持派が乱入したことを受けツイッター社は、同大統領の投稿が「さらなる暴力を誘発する恐れがある」と解釈、定められた手続きを経た上で、投稿ルールに則って同大統領のアカウントを「永久停止」とした。フェイスブックやグーグル、アップルなど米国を代表するIT企業も程度の違いはあるが軒並み追随している。一連の動きを眺めながら気になったのは、「表現の自由」との関係だ。日本の主流派メディアは何かにつけて大上段に振りかざしてこの問題を取り上げる。だが、今回は「表現の自由」の観点からの問題提起はほとんどない。朝日新聞はこの点に触れているが、賛否両論を列挙(10日付朝刊)しているだけで独自の判断は示していない。
日本国憲法には第21条に「集会、結社及言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保証する」とある。米国の憲法はよく知らないが、朝日新聞によると「表現の自由は憲法で保障された、重要な権利だ」とある。フォロワーが8800万人を超えているトランプ大統領のツイッターも当然この権利が保障されているはずだ。ツイッター社は発信内容に問題があるとしているが、永久停止の対象となった発信の中身は、支持者への「愛している」とのメッセージと「20日の就任式に出席しない」との方針説明に過ぎない。ツイッター社はこれが「さらなる暴力を誘発する可能性がある」と解釈した。一企業の解釈が超大国アメリカの大統領の発言を封じたのである。SNSには一見なんでもない表現にある種のメッセージを込める使い方があるようだ。例えば、「愛している」という表現が次の行動を呼びかける暗号になっているようなケースだ。だが、それを実証するのは極めて難しい。
例えば結社の自由。「政権を応援する会」という結社があった時、ツイッター社は政権打倒を目論んでいるとしてこの会のアカウントを拒否できるだろうか。犯罪の可能性は解釈としては成り立つが、犯罪が実行される前に一民間企業が当該グループに犯罪者のレッテルを貼ることは許されない。ツイッター社は規則に違反すればアカウントは永久に停止できる。だが、現実的にはこの会の投稿が規則に違反しているとわかるのは、捜査当局によって犯罪が確定した時である。それが解釈によって可能になるとすれば、憲法が保証する表現の自由を犯したことになるのではないか。SNS企業には「通信品位法」によって免責特権が付与されている。6日に起こったトランプ派による連邦議会への乱入についてはアンティファ、プラウドボーイズの左右両過激派の関与を指摘する声もある。朝日新聞はご丁寧にアンティファを特定して「そのような兆候はない」と捜査官の見方を紹介している。トランプ派の肩を持つわけではないが、今回の騒動並びに報道には、釈然としないことが多過ぎる。
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