終盤国会の対決法案に浮上した入管難民法改正案について、菅政権が今国会成立を断念した。収容されたスリランカ人女性の死亡で改正案への批判が高まる中、成果が見えない新型コロナウイルス対応で内閣支持率が急落。7月の東京都議選や秋までにある衆院選を考慮し自重を迫られた。成立を阻止した野党は対決姿勢を強める構えだ。
「重大な決断をしたい」。自民党の森山裕国対委員長は18日、立憲民主党の安住淳国対委員長にこう伝達。安住氏が「成立断念か」と詰め寄ると、「これ以上審議を進めない」と白旗を揚げた。
改正案は、不法滞在する外国人の収容長期化の解消が主眼だ。3月の女性死亡に野党が反発し、真相解明や女性が映った監視カメラの映像公開を要求。野党が提示した修正10項目を与党はほぼ丸のみしたものの、映像の扱いで折り合えず、採決強行か断念かの瀬戸際に追い込まれていた。
自民党幹部によると、成立断念は菅義偉首相が18日午前に決断した。首相周辺は、報道各社の世論調査で支持率が急落し「首相が弱気になっている」と明かす。女性の遺族が来日しているタイミングで採決を強行すれば、世論のさらなる反発を招きかねないとの懸念もあったようだ。
今国会は6月16日の会期末まで1カ月を切ったが、国民投票法改正案や医療制度改革関連法案など重要法案が積み残しのまま。野党が義家弘介衆院法務委員長(自民)の解任決議案に続き、上川陽子法相の不信任決議案で抵抗する方針を示し、審議日程が一層窮屈になるのは不可避だった。
公明党の事情もあった。国政選挙並みに重視する7月4日の都議選を前に、人権が絡む法案で強引な手法は避けたかった。同党の山本香苗氏が参院法務委員長を務めていることもあり、自民党に「強行採決は絶対に困る」と伝えていたという。
成立断念について、自民党幹部は「政権にダメージがないと言えばうそになる」と認めた。公明党若手も「政権弱体化の表れだ。突っ込む体力がもうないんだろう」とため息をついた。
野党は勢いづいている。立憲民主党の枝野幸男代表は党会合で「成立断念という結果を勝ち取ることができた」と誇った。
内閣不信任決議案も焦点になりそうだ。提出すれば衆院を解散するとけん制する政府・与党に対し、枝野氏はコロナ禍を理由に慎重な考えを示していたが、立憲中堅は「衆院選直前だから出さない選択肢はない」と強調。内閣支持率の下落を受け、共産党も「重要な選択肢」(小池晃書記局長)と強気になっており、会期末に向けて与野党攻防が緊迫する可能性も出てきた。