平壌の錦繡山太陽宮殿を訪れた北朝鮮の金正恩総書記(左から4人目)。趙甬元書記(同2人目)や金与正氏(左端)が同行した=4月(朝鮮中央通信=共同)
平壌の錦繡山太陽宮殿を訪れた北朝鮮の金正恩総書記(左から4人目)。趙甬元書記(同2人目)や金与正氏(左端)が同行した=4月(朝鮮中央通信=共同)

【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の朝鮮労働党が新設した党「第1書記」は、最高指導者の権限を代行できる総書記の「代理人」と位置づけられていることが、産経新聞が4日までに全文を入手した党規約の改正内容から分かった。金正恩(キム・ジョンウン)総書記に次ぐ公式のナンバー2も意味し、韓国の複数の専門家は、正恩氏が万一の事態に、妹の金与正(ヨジョン)党副部長が第1書記に就き、一時後継者役を担う可能性があると分析している。

朝鮮労働党は1月の5年ぶりの党大会で、統括機関として書記局を復活させ、正恩氏が総書記に就任。趙甬元(チョ・ヨンウォン)氏ら7人を部門別の書記に選出した。こうした規約改正の概要は伝えられたが、全文は不明だった。

今回、入手した全文によると、改正版規約は、党中央委員会総会で「第1書記、各書記を選出」と記載。「第1書記は総書記の代理人」と明記した。

第1書記は正恩氏が2012~16年に使った肩書でもあるが、当時は最高指導者を指し、今回の代理人役とは大きく異なると専門家らは説明する。とはいえ、「唯一指導」の名の下、最高指導者のみに絶対権力を付与してきた北朝鮮でナンバー2の役職が正式に設けられるのは極めて異例だ。

複数の韓国メディアは、正恩氏の最側近の趙氏が第1書記に就いた可能性があると報じている。韓国世宗(セジョン)研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)北朝鮮研究センター長は、第1書記の役割について「正恩氏が業務負担を減らし、自身は重要な政策決定に集中するため」と分析。趙氏就任の可能性に言及した。

これに対し、北朝鮮の権力構造に詳しい自由民主研究院の柳東烈(ユ・ドンヨル)院長は、趙氏が既に高い職責にあるのは公然の事実であり、「第1書記に就いたとすれば、公表しないのは不自然だ」と指摘。正恩氏が倒れるなどの非常時に備えた役職との見方を示す。

李鍾奭(イ・ジョンソク)元統一相も記者団とのオンライン会見で同様の見解を述べつつ、建国者、金日成(イルソン)主席の直系血族のみが最高権力を行使できる不文律があることから、正恩氏の妹の与正氏を想定した役職だと予測した。

正恩氏は30代と若いが、140キロ台の肥満で、複数の疾患を抱えていてもおかしくないといわれる半面、息子はまだ幼いとされる。息子が成人し、最高指導者に就くまでの〝中継ぎ〟が必要だとの見立てだ。

金正日(ジョンイル)前総書記が11年に死去した際、正恩氏は党中央軍事委副委員長や軍大将の肩書を持っていたが、後継者と明確にする役職は用意されていなかった。

第1書記に関し、李氏がまだ「空席」だとみる一方、柳氏は与正氏が既に「内定」し、秘匿されている可能性があると語る。

改正版の党規約では、金日成、正日、正恩という個人名が大幅に削除され、個人による支配から党による統治への転換を強く印象づけている。第1書記の新設について、ナンバー2の存在を許しても自らの権威は揺るぎないという「正恩氏の自信の表れ」との見方で専門家は一致している。