新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の低迷を背景に、銀行預金が急増している。低金利下で積み上がる預金は銀行の有価証券運用を一層困難なものにし、よりリスクの高い投資を活発化させる可能性もある。

  日銀の大規模な金融緩和を背景に銀行預金は近年増加傾向にあるが、昨年以降、伸びが加速。メガバンク3行だけでも昨年度41兆円増加した。

  「これはある種、信頼信用の証しだが、非常にありがたいと思っている。一方で、正直どう運用するか非常に悩ましい問題を抱えている」。三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長は5月の決算会見でこう述べ、有価証券運用で「新機軸投資」を始めることを明らかにした。

  同社によるとプライベートエクイティー(PE、未公開株)などのオルタナティブ資産を投資ポートフォリオに組み入れることを検討している。

  コロナ禍の中で預金が急増したのは、政府による特別定額給付金など各種の財政支出や、企業の手元資金確保の動きが強まり、銀行が貸し出しを積極的に行ったことなどが要因だ。銀行の預金残高と貸出残高の差である預貸ギャップは急拡大し、日銀によると4月には過去最大の324兆円に達した。

  新型コロナのパンデミック(世界的大流行)を受けた巨額の政府支援や消費抑制などにより銀行に預金が積み上がる傾向は米国など海外でも見られる。ただ、日本の場合、この問題が決して目新しいものではないという点で他国と異なる。

  これまでのところ、銀行は積み上がった預金のほとんどを日銀預け金などに振り向けている。日銀の統計によると、国内銀行の「現金預け金」は3月までの1年間で4割以上増加し、353兆円となった。みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長は「短期国債を中心とした運用で足元は対応する」という。

  ただ、積み上がった預金をどう運用するかという課題への対応は長期戦になりそうだ。「預金は構造上なかなか減らない。政府の企業・家計支援策が長引けば、預金がさらに増加するリスクがある」とニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは指摘する。

  マイナス金利政策が続く中、国債での運用にも限界があり、他の投資先を模索する動きは地方銀行にも広がる。横浜銀行と東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループの大矢恭好社長は決算会見で、今年度の有価証券運用について日本国債と比べリターンの高い米国債やモーゲージ債に投資していく方針を示した。

  かつて銀行の有価証券運用は余資運用と呼ばれていたが、長引く低金利下でその位置付けは変わってきている。マネックス証券の大槻奈那専門役員は「近年、銀行にとって有価証券運用は本業の1つになっているが、さらにその役割が大きくなっていくだろう」と語る。

  大槻氏は「有価証券運用の幅を広げ、例えば私募投信などを通じて不動産など流動性の低いものに対する投資が増えていく可能性がある」と指摘。「流動性の低い資産への投資は比較的高いリターンが魅力だが、同時にリスクについてもより注意が必要だ」と付け加えた。