新型コロナウイルス感染症(COVID19)のパンデミック(世界的大流行)が始まってからほぼ1年半がたち、ブルームバーグが毎月まとめる世界で最も安全な国・地域の番付「COVIDレジリエンス(耐性)ランキング」では「正常化」が鍵になった。
史上最大規模のワクチン接種プログラムによって、世界の一部ではマスク着用義務がなくなり、行動制限や越境管理が緩和や廃止される中、活動再開の度合いが生活の質を決定づけている。一時は感染者数と死者数を抑え込むことと堅固な医療体制の維持が最優先だったが、今では本質的にパンデミック前の状態に戻ることがより重要になっている。
中でも最重要の要素は、国・地域が世界に対してどの程度開かれているかだ。そこで、ブルームバーグの耐性ランキングは経済活動などの「再開の進展」度合いを番付に加え、これを測る指標として次の2つを導入した。一つは「ワクチン接種後の越境可能ルート(VACCINATED TRAVEL ROUTES)」で陸・海・空路含めた越境の容易さを測る。もう一つは「フライト能力(FLIGHT CAPACITY)」で国内線を含めた空路の復活度合いを示す。これらが、死亡率や感染者数、移動の自由、経済成長などのこれまでの10指標に加わった。
これによってランキングに劇的な変化が生じた。米国は効果の高いメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを中心とした大規模かつ迅速な接種によって、一時は世界最悪だった感染者数を抑えて首位に躍り出た。
米国ではレストランがにぎわい、ワクチンを接種すればマスク着用の義務はなく、国民は再び旅行に出掛けている。人口の半分に達したワクチン接種率が安心材料だ。1兆9000億ドル(約210兆円)の景気対策とワクチン接種に伴う消費者信頼感の回復により、今年の米経済は高成長が見込まれている。
ランク付けの焦点が変わったことから5月の順位との直接的な比較は行わないが、今月目立ったところでは、スイス、フランス、スペインなどの欧州諸国がトップ10入りしたことが挙げられる。ワクチン接種済みの旅行者に国境を開いたほか、国内ではワクチン効果で入院患者が減少した。
一方、これまで高順位を維持してきたシンガポールや香港、オーストラリアなどアジア太平洋の一部の国・地域は、厳格な越境管理継続と小規模な感染再拡大も許さない姿勢が経済再開を難しくすることから順位を下げた。台湾はさらにワクチン接種の遅れと最近の感染再拡大が加わり、半分より下の順位に後退した。日本は23位。
変異株を中心とした感染拡大に見舞われているインドとフィリンピン、幾つかの中南米諸国が下位グループを占めた。ワクチンの遅れと世界での孤立が重しだ。
力の強い先進国・地域が新型コロナの感染拡大を抑えられなかったことは歴史に残り、深い傷跡を残している。米英に加え、一部欧州諸国は人口に対する死亡者数が世界で最も高い国々の中に入った。しかしこうした国は結局、十分なワクチンの確保を主な原動力に、他に先駆けてうまくコロナ時代を脱しつつある。
昨年11月のランキング開始以来上位を占めてきたアジア太平洋の国・地域は後退。今月2位のニュージーランドや13位シンガポールなど「新型コロナ時代に安全な場所」だった国は、国境管理と長期隔離の政策によって新規感染者数をゼロ付近に抑えている。国内の生活はほぼ通常に戻っているものの、少しの新規感染で、ワクチン接種が進んでいる国では過去のものとなった制限措置が発動され、国境は実質閉ざされたままだ。シドニーは数十人の地域内感染で2週間のロックダウン(都市封鎖)に入った。オーストラリア国民は昨年3月以降、海外渡航を許されていない。
新型コロナの流行が終わらないことを受け入れて先へ進もうとする国がある中で、これらの国々はロックダウンの繰り返しから抜け出せない恐れがあり、特に観光への依存が高い小規模の国にとっては大きな打撃だ。それでも、新型コロナをほぼ根絶させ国内の自由なら取り戻したニュージーランドとオーストラリア、中国本土は上位10以内に入っている。
COVID耐性ランキングはある時点のスナップショットにすぎない。新興国での流行からさらに強力な変異株が生まれ続ければ、米国と欧州が成し遂げた好転が持続するかどうかは分からない。デルタ株の拡大のために英国は経済再開計画を1カ月遅らせ、イスラエル(4位)は屋内のマスク着用義務の復活を決めた。
新型コロナのトンネルの先に見えた明るさはつかの間ののものなのか、それともますます多くの国・地域がパンデミックを脱することができるのか、それが7月のランキングの焦点になる。
再開の進展度合い
53の国・地域の再開の度合いを測るため、ブルームバーグはワクチン接種の進展、ロックダウンの深刻さのほか、ワクチン接種後の人の移動の自由に関する2つの指標に今月注目した。フライト能力は2019年の同じ月と比較した利用可能な旅客機座席数の増減比率。ワクチン接種後の越境可能ルートは旅行データ提供のシャーパのデータベースに基づいている。
これらを織り込んで総合1位の米国はワクチン接種率が高く、新規感染者が減少、フライト能力が100%回復に近く、ワクチン接種済みの人への旅行制限がほとんどない最善のシナリオを反映している。
4位のイスラエルは60%近い国民がワクチン接種を終え、1週間の死亡者はピーク時の400人以上から数人に減った。ただ、感染力の強いデルタ変異株の感染拡大が海外からの渡航者受け入れ再開を遅らせている。
9位の英国も「グリーンリスト」上の行き先への海外旅行は可能だが、やはりデルタ株が一段の再開を阻んでいる。
市民の40%相当がワクチン接種を受けた欧州連合(EU)加盟国はどこよりも早く、接種済み旅行者を隔離なしで受け入れている。接種後の越境可能ルートの指標によれば、ルーマニアとスイス、スペインが世界に対して最も開かれている。
国境を閉ざすことで新型コロナ根絶を図ってきたアジア太平洋の国・地域の再開進展スコアは概して低い。厳しい国境管理と隔離政策はウイルスの侵入を防いできたが、一方で世界での孤立を深めている。水際での阻止の成功はワクチン接種の緊急性を薄れさせ、ニュージーランドとオーストラリアでワクチン接種を受けた国民は15%未満にとどまっている。
中国本土は事実上国境を閉ざしているものの、OAGのデータによるフライト能力は高スコアだった。国内線が国際線の欠如を補った。逆に、香港やシンガポールのように域内・国内フライトがない国のスコアは低くなった。
原題:The Best And Worst Places to Be as The World Finally Reopens(抜粋)