静岡県熱海市伊豆山で今月3日に発生した土石流。大量の土砂を含んで勢いを増した水がすさまじい勢いで斜面を下り、建物や車を飲み込みました。
「窓から外を見たらバキバキと音を立てて木が折れて近くまで押し寄せてきていた」
当時の状況が住民たちの証言から次第にわかってきました。そして現地の様子などを分析した専門家などは今回崩れた“盛り土の”リスクを指摘しています。
最初の土石流から15分ほどあと
土石流が発生した熱海市伊豆山の逢初川近くで、自宅から消防に救助された男性が当時の状況を語りました。
大久保衛さん
「木がガサガサとゆれるような音が聞こえ、10分ほどするといきなりダーっと土砂が流れてきた」
「最初の土石流から15分ほどあとに、さらに勢いを増した土石流が再び押し寄せた。自宅の裏にある崖の上から消防の人にハシゴを下ろしてもらい、近くにいた10人ほどで10メートルほど登って避難した。そのあとさらにもう一度土石流が来て生きた心地がしなかった」
バキバキと音を立てて…
逢初川の上流に位置する集落の上の方に住み、現在、避難所に避難している30代の男性。土石流の発生当初は自宅にいました。
「午前10時27分ごろに地震のような揺れを感じるとまもなく停電した。続いて、ゴーという音がしたほか、窓から外を見たらバキバキと音を立てて木が折れて近くまで押し寄せてきていた。土砂が崩れているのも見たが、水分をあまり含んでいない土砂に見えた」
「10時40分ごろ、外に出て周りの様子を確認すると、それまでよりも水を含んだ土砂が地面を流れていた。流れの速さは遅くなったり、速くなったりして、流れる土砂の幅も広くなったり狭くなったりしていた。あたりには土のにおいが立ちこめていた」
“着の身着のまま連れ出した”
熱熱海市の福祉タクシー会社「伊豆おはな」の河瀬豊社長は、土石流の発生直後、地域のお年寄りの住宅をめぐり、足腰が弱い80代の夫婦が自宅にとどまっていたのを見つけ急いでタクシーに乗せて避難所に送り届けました。
またドライバーも務める妻の愛美さんは、夫とは別行動で地域に取り残されたお年寄りを探しました。そこで出会った消防団と協力し、耳が不自由で防災無線などを聞き逃したとみられるお年寄りや、車いすで生活し、自力で避難できないお年寄りなど3人を次々と助け出し、みずからの運転で避難させました。
河瀬愛美さん
「お年寄りに声をかけたが、耳が悪くて何が起きているか分かっていない様子で、着の身着のまま連れ出しました」
土石流は、大雨で崩れた土や石が水と一体となって一気に流れ下る現象で、勾配が急な川や谷のあるところ、谷の出口にある扇状地と呼ばれる場所で起こります。
土砂が大量の水とともに流れ下るスピードは、数十キロと自動車並みに速く、土石流が発生してからでは避難するのが難しくなります。
静岡県は国や県の地形の詳細なデータをもとに上流側の崩れた現場の状況を分析しました。
それによりますと2010年ごろの国土交通省のデータと去年の県のデータを比べると、谷だったとみられる地形の場所の東西およそ200メートル、南北60メートル以上にわたり、土を盛るいわゆる盛り土が施されていたということです。
また精度の異なるデータを比較しているため、あくまで分析値だとしたうえで、盛り土の量はおよそ5万4000立方メートルにのぼる可能性があるとしています。
また場所によっては2010年ごろの地形から10メートル以上土が盛られた場所もあり、3日に実施した現場の調査では、盛られる前の斜面が見えているところも確認されたということです。
土石流で崩れた場所は
国土地理院は、3日と4日、国土交通省や静岡県が撮影したドローンと5日に撮影した国土地理院の測量用の航空機の写真から、土石流で崩れたり土砂が積もったと見られる場所を分布図に取りまとめました。
分布図によりますと、海岸線からおよそ2キロの付近で、山肌が長さおよそ300メートル、幅が最大でおよそ120メートルにわたり、土砂が崩れていて、土石流が始まった場所と見られています。
そこから1キロほど下流に広がる住宅地では、土砂が積もった場所が海岸線までおよそ1キロメートル、幅は広いところでおよそ160メートルにわたっていたということです。
国土地理院では「上空からの映像で見える範囲を判読したもので、すべてを反映できていないが、災害対応や復旧活動などの参考にしてほしい」としています。
国土地理院では、今後も、測量用の航空機で上空写真を撮影し、災害の前と後の航空写真の比較などをまとめることにしています。
“盛り土”のリスク
土石流が発生した要因について、地盤工学の専門家は、盛り土のあった場所は地下水が集まりやすい場所で、この場所が土石流の起点になった可能性があると指摘しています。
地盤工学が専門で東京電機大学名誉教授の安田進さんは、静岡県が撮影した土石流の上流部の映像について、崩れた斜面から水が噴き出していることから盛り土によって地下水の流れがふさがれ、大量の雨で水圧が高まって土砂を押し出したと分析しています。
東京電機大学 安田進名誉教授
「最上流の現場は水が集まりやすい場所で、えぐられた地面の様子を見るかぎり、この場所が土石流の起点になった可能性がある。崩壊した土砂が谷を下るにつれて両側の斜面の土を削り、土砂の量が一気に増えて被害を大きくしたことが考えられる」
「谷間を埋めて盛り土を行う際は底に排水パイプなどを通して水はけをよくするなどの対策が必要だが、どのような対策がとられていたか、もとの地形はどうだっかなどは今後詳しく検証が必要だ。山の中に土砂や産業廃棄物の処分場などがあるケースはほかの地域にもあり、リスクがあると考えてほしい」
また今回崩れた盛り土周辺について、国土地理院が過去に上空から撮影した写真をみると、盛り土が行われる前と後の様子が分かります。
1970年代に撮影した写真では、木々が生い茂って地面などは見えない状態ですが、2012年や2017年に撮影した写真では階段状に土を削ったり、盛ったりした様子が分かります。
国土交通省によりますと、上流側の崩れた盛り土については、平成19年に熱海市に対して、小田原市の業者から、土を運び込むための届け出が出されていたということです。
一方で、何のために土を運び込むのかや土がどこから持ち込まれたかは分かっていないということです。
盛り土造成に詳しい関東学院大学の規矩大義教授
「盛り土を行う際、対策は行うことになっているものの、もともとの地盤と盛り土の接続部分に水がたまりやすく、大雨が降った場合、不安定になって崩れやすくなる。こうした盛り土が行われている場所は全国に広がっていて、どこでも同じようなリスクがあると考えてほしい」
静岡県の川勝知事は4日に分析の結果を公表したあとの記者会見で「今回は盛り土部分が全部持っていかれていて、大変危険をもたらすような山への手の加え方があったのではないか。ほかの地域の参考になる部分もあると思うのでしっかりと検証する」と述べ、県として盛り土と土石流の関係などを調査するとしています。