いまひとつよくわからないのは、全国各地の自治体でワクチン接種の予約が一時停止に追い込まれていることだ。中には「政府に尻を叩かれて急いだのに梯子を外された」と、露骨に政府を批判する首長もいる。一体何がどうなっているのか、気になるところだ。コロナ対策で失政が続く菅政権にあって唯一の成功事例がワクチン接種だと思っていたが、そこにもクレームがついた格好だ。危機に際して結束力を見せつけたかに見えたワクチン接種。実は意外なところに落とし穴があった。感染防止の切り札と強調する菅首相の檄に呼応して、日本中が頑張った。予想を超える予約が殺到、配送計画が狂い始めたのだ。不可能と見られていた「1日に100万回」は今や「140万回」に達している。誰が悪いというわけではない。強いて言えば誰も全体が見えていないということではないか。

政府が確保しているワクチンはトータルで1億8200万人分に相当する。ファイザー製が9700万人分(1億9400万回分)、モデルナ製が2500万人分(5000万回分)、アストラゼネカ製が6000万人分(1億2000万回分)の合計1億8200万人分(3億6400万回分)だ。接種対象年齢はファイザー、モデルナとも12歳まで引き下げられるが、それでも国民全員に行き渡る量だ。もちろんこれは契約ずみの量ということで、全てが手元にあるわけではない。順次輸入され、申請にしたがって各自治体に配送される。一見単純な作業なのだが、需要と供給を合わせるのはそんなに簡単ではない。サプライチェーンに不測の事態が起こることや、需要見通しを把握するのが意外に難しい。接種開始当初は医師や看護師の協力が得られるか、接種者不足が大きな懸念材料だった。自治体が接種を順調にこなせるか、見極めもつかなかった。

7月2日、河野担当大臣がテレ朝に出演して事情を説明している。接種のやり方については自治体に委ねたと発言している。要する政府はコントロールせず、「自治体の裁量に任せた」というのだ。「政府がコントロールしたら接種回数はこれほど伸びなかった」、これが大臣の認識だ。今や接種回数は1日140万回相当、自治体によっては220万回相当まで伸びたところもあるという。専門家や医師会が医療逼迫を強調する中で、全国の自治体が接種者を確保した。医師会の見通しが甘かったのではないか、「1日100万回」とブチ上げた菅首相はその辺の事情を知っていたのではないか、何やら勘ぐりたくなる。河野大臣の言葉を裏返せば、自治体に好きなようにやらせれば、結果は良くなるということだ。自治体の意向を尊重して、逆に文句を言われているワクチン担当大臣。これは歪みに歪んだ日本の行政の盲点だ。予約一時停止という事態の中に、行政のあるべき姿の一端が隠れているような気がする。