菅義偉首相の地元である横浜市の市長選で、首相自身が全面支援を打ち出した前国家公安委員長の小此木八郎氏が敗れ、政権に激震が走った。衆院議員の任期満了まで残り2カ月。9月の自民党総裁選に向けて「党の顔にならない」と交代を望む声が広がるのは必至だ。

 「ご苦労さま」。首相は22日夜、小此木氏から電子メールで選挙戦敗北の連絡を受け、こう返信した。首相側近の坂井学官房副長官はテレビインタビューで「自民党で小此木候補に推薦を出すことができなかった。まとめきれなかった」と敗因を語った。

 自民党神奈川県連会長だった小此木氏は独自候補を立てられなかった責任を取るとして6月に閣僚を辞任し、市長選に出馬。党が過去2回推薦した現職の林文子氏も名乗りを上げ、保守分裂となった。「菅派」市議も割れた。

 「自主投票」で臨む党の立場を離れ、個人として小此木氏支援を公言した首相の対応は異例だ。内閣支持率が低迷する中、お膝元で行われる重要選挙を制して反転攻勢に出たいとの思いもあったとみられる。今月3日の党役員会で「総裁の立場にあるが、友情支援する」と宣言した。

 小此木氏は首相がかつて秘書を務めた彦三郎元建設相の三男。首相自ら地元有力者らに電話で支持を求めたといい、坂井副長官がビラ配りをした。

 だが、深入りは裏目に出た。当初、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致が主な争点となったが、首相参戦により政府の新型コロナウイルス対策に焦点が当たる展開に。岸田派中堅は敗因について「首相への拒否感だ」と断言。麻生派の閣僚経験者は「首相を嫌い小此木氏から離れた人もいたはず」と語った。

 昨年9月の菅首相就任以来、自民党は負け続き。3月の千葉県知事選は約100万票差で惨敗し、4月の衆参3選挙に全敗。7月の東京都議選は過去2番目に悪い結果だった。横浜市長選は「首相の敗北」という側面を持つ点で深刻だ。

 自民党総裁選は衆院解散がなければ「9月17日告示、同29日投開票」の日程で行われる方向。今月26日に決定するが、与党内はにわかに浮き足立っている。二階派若手は「危機的だ。退陣論が噴き出す」と懸念。公明党関係者も「野党が勢いづく。このままではきつい」と危機感を隠さなかった。

 一方、菅政権に土をつけた立憲民主党の江田憲司代表代行は、衆院選をにらみ「いい受け皿があれば自民党は恐るるに足りない。胸に響く政策を打ち出せるかが立民に突き付けられた課題だ」と記者団に語った。