菅首相(自民党総裁)の衆院選戦略が定まらない状態が続いている。軸としていた10月17日投開票を閣議で決める「任期満了選挙」案を巡っては、総裁選前に選挙日程を決める必要があることから「筋が通らない」として、首相に近い小泉環境相が反対の考えを首相に伝えた。この案は、同じく首相側近の森山裕国会対策委員長が主導して描いたシナリオだったが、実現可能性は遠のいている。

「任期満了」案 遠のく

 「国対目線ではなく、国民目線で考えてください。総裁選で勝った人が選挙日程を決めるべきです」

 首相周辺によると、小泉環境相は2日、首相官邸で菅首相と向き合い、「任期満了選挙」案を選ばないよう進言。小泉氏が言葉を尽くして説得すると、首相は理解を示したという。「国対目線」とは、この案が、国会日程を巡り野党と交渉する森山氏が「野党への配慮から提案したものだ」との見方が党内で出ていることを受けたものだ。

 大島衆院議長は、衆院議員の任期満了となる10月21日までの衆院選実施が「憲政の常道」だとの考え方を持つとされる。8月中旬には、立憲民主党の安住淳国対委員長も同様に10月21日までの衆院選を森山氏に求めた。森山氏としては「憲政の常道」を外せば、強い批判を浴びかねないと懸念し、首相に助言。首相が、任期内に選挙を行う方向で検討に入った経緯がある。

 問題は、この日程を実現するには、9月29日の総裁選の投開票前に閣議決定が必要となる点だった。党内から「総裁選に勝利するかどうかわからない首相が選挙日程を決めるべきでない」との声が相次いだ。小泉氏は1日夜、東京・赤坂の衆院議員宿舎で、自らを含む党青年局長経験者らと集まった際、こうした危機感を共有した。首相の信頼が厚い小泉氏が翌日、代表して首相に「直談判」した。

 小泉氏は8月31日、首相が9月中旬に解散し、総裁選を先送りする案に傾いた際も阻止に動いた。小泉氏は首相に「総裁選に勝利し、解散するのが王道です」と伝え、踏みとどまるよう迫った。解散による先送り案も、総裁選で首相が劣勢になりかねないとの見方が広がったことを受け、森山氏が首相に取り得る選択肢として助言したとされる。党関係者は「首相は『憲政の常道』という言葉や野党との関係にこだわる国対的な発想に左右されすぎた」と指摘する。

 首相はこの間、党内の多くが納得できる「王道」論を唱える小泉氏と、複雑に絡む政治日程に配慮する森山氏の間で揺れ続けた。両氏は、様子見が目立つ党内で、首相を支える姿勢を貫いている。主要閣僚の一人は「首相を支える中枢内で路線対立が起きている。首相もどちらの声に耳を傾けるべきか悩んでいる」と推し量る。