[香港 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 中国事業で利益を生み出すまでには時間がかかる――。外国銀行は何度もつらい思いをしてこうした教訓を学び取ってきたが、彼らの熱気は決して冷めていない。広東省と香港・マカオを合わせた「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」を巡り10日に発表された金融商品の相互投資制度「越境理財通(クロスボーダー・ウエルス・マネジメント・コネクト)」に備え、HSBCやシティグループなどは既に関連事業の人材の積極的な採用に乗り出している。

広東省と香港・マカオを合わせた「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア、GBA)」を巡り10日に発表された金融商品の相互投資制度「越境理財通(クロスボーダー・ウエルス・マネジメント・コネクト=WMC)」に備え、HSBCやシティグループなどは既に関連事業の人材の積極的な採用に乗り出している。ただ過去の経験に照らせば、外銀はごく緩やか形でしか恩恵にあずかれないだろう。

越境理財通の下では、香港の金融機関はGBAで、一定の条件を満たした中国本土の消費者に直接に金融商品を販売できる。その逆も可能。既に実施されている香港と上海、深センの株式・債券相互取引にならった仕組みだ。今回も同様に中国当局の厳格な資本規制が適用される。投資の現金化は人民元建てのみで、双方向ともに当初の投資枠は1500億元(233億ドル)が上限になる。

ゴールドマン・サックスによると、GBAを構成する11都市の経済規模は中国経済全体の13%に相当。香港のリテール銀行から見れば、現在は700万人である経済規模が10倍に拡大することになる。だからシティグループがなぜ今年3月、香港で最大1700人を採用する計画を打ち出したのかも、ある程度説明がつく。2月にGBA部門を立ち上げたHSBCは中国でウエルスマネジメントの人員3000人の確保に動いている。シンガポールのDBS銀行も4月、香港の金融機関の株式13%を取得するため8億1400万ドルを投じた。

香港の金融機関にとって、中国本土事業の大半を占めるのは依然として法人向け融資であるだけに、中国の消費者との直接取引は画期的な変化をもたらす。しかし取引が一気に拡大する公算は乏しい。当初の投資枠が抑えられているほか、越境理財通に基づいて本土の投資家に販売されるのは当局が許可した低中リスクの香港の投信に限られる複雑な仕組み商品やデリバティブは含まれない。リターンがいわば暗黙に保証される貯蓄性商品に慣れている人々であれば、リスクを分散しようとする分散投資のアイデアを歓迎するかもしれないが、香港側に投資がされる場合の相対的なリターンの低さには、不満が出ても不思議ではない。

以前に導入された幾つかの相互取引制度は、華々しい前宣伝に比べて滑り出しの取引規模は小さく、その後の増加ペースもゆっくりだ。香港とGBAの各都市とでは税制や法制度、扱う金融商品が異なる点を踏まえると、やはり相互取引の発展スピードは遅くならざるを得ないだろう。中国に野心を持つ銀行はどこも、この新しい市場をライバルに譲る余裕などない以上、人材採用には熱を入れている。ただしそれとほぼ同じ勢いで、投資資金が入ってくるわけではなさそうだ。

●背景となるニュース

*中国は10日、広東省9都市と香港、マカオの「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア、GBA)」における金融商品の相互投資制度「越境理財通(クロスボーダー・ウエルス・マネジメント・コネクト=WMC)」を開始すると発表した。これにより香港の銀行はGBAにおいて、一定の条件を満たした中国本土投資家向けに商品を直接販売できる。逆も可能になる。

*香港金融管理局(HKMA)によると、当初の投資枠は双方向とも1500億元(233億ドル)が上限になる。

*経済発展を続けるGBAの人口は7000万人を超える。香港とマカオをさらに本土に緊密に統合しようとしている中国政府にとって、この地域の振興は優先課題の1つに位置づけられている。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)