自民党総裁選(17日告示、29日投開票)で、石破茂元幹事長が立候補を見送る方向となった。石破氏は協力要請を受けた河野太郎ワクチン担当相の支持に回るとみられることから、石破氏と反目してきた安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相に近い議員の間に反発が広がる。河野氏は知名度の高い石破氏や小泉進次郎環境相らの後押しで党員・党友票の上積みを狙うが、国会議員票を減らす展開もありうる。

安倍氏の出身派閥で最大勢力の細田派(清和政策研究会、96人)は14日の会合で、河野氏を支持しない方針を決めた。同派からは柴山昌彦幹事長代理らが河野氏支持を鮮明にしたが、河野氏支持の議員に対する罰則までは検討していない。

とはいえ、派として「河野氏以外」の決め手となったのは、政策の違いだった。

事務総長の松野博一元文部科学相は会合後、記者団に、エネルギー政策について河野氏の持論が「脱原発」であることを念頭に「わが派の過去の議論において、合意できるものではないということだ」と説明した。高市早苗前総務相を支持する高鳥修一衆院議員は「清和研の政策は保守的な政策が多く(高市氏と)共通点が多い」として、派の決定を歓迎した。

また、安倍氏に近いベテラン議員は「石破氏が河野氏を支持するならば『石破氏と足並みをそろえる河野氏を支持していいのか』と議員や党員に訴えやすくなる」と話す。「河野-石破」連合が好都合というわけだ。

背景には、安倍氏側の忘れられない過去がある。石破氏は第1次安倍政権下の平成19年参院選で自民党が大敗した際、首相の安倍氏に対し「『私か(当時の)小沢一郎民主党代表かの選択だ』と訴えたのに、どう説明するのか」と暗に退陣を促した。安倍氏側からすれば、石破氏は「後ろから鉄砲を撃つ人」との受け止めが強い。

一方、安倍氏の盟友の麻生氏が率いる麻生派(志公会、53人)は支持候補の一本化を見送り、それぞれ若手とベテランに支持の多い同派所属の河野氏、岸田派(宏池会、46人)の岸田文雄前政調会長を「基本的に支持」する方向だ。

石破氏に対しては、麻生氏にも苦い過去がある。麻生氏に近い麻生派の薗浦健太郎衆院議員は13日のBS―TBS番組で、21年の麻生内閣末期に「急先鋒(せんぽう)で『麻生おろし』を始めたのが石破氏だった」と指摘した。結果的に麻生氏率いる自民党は衆院選に大敗し、民主党に政権を奪われた。麻生、石破両氏の溝もまた深い。

石破氏が河野氏の支持に回る場合について、麻生派議員は「石破氏がついた河野氏は、派閥の候補といえなくなるのではないか」と懸念を示す。河野氏は13日のTBS番組で石破氏からの支援の可能性について問われると「どなたでも1票を入れていただきたい」と語ったが、今後は石破氏との距離が焦点となりそうだ。(沢田大典、今仲信博)