占部絵美

  • アベノミクスで日銀と連携、消費増税でも債務残高GDP比は2倍超
  • 国際課税ルール見直しを提案、退任で日本の存在感に影響と懸念の声

戦後最長の約9年にわたり財務相を務めてきた麻生太郎氏(81)が、自民党の岸田文雄総裁による新内閣発足を機に退任する見通しとなった。首相経験者の麻生氏は国際舞台でも存在感を発揮してきたが、懸案の財政再建はコロナ禍などの影響で進まず、後任に託された。

  新内閣の財務相に鈴木俊一元五輪相(68)を起用する方向で調整に入ったとFNNが伝えた。麻生氏は党副総裁に起用されるという。

鈴木俊一元五輪相を財務相に起用の方向、麻生氏は党副総裁-報道

  麻生氏は2012年12月、安倍晋三政権の副総理兼財務相に就任した。18年2月には、財務相としての在任期間が宮沢喜一元首相を抜いて戦後最長となった。

  安倍前首相の右腕として、大胆な金融政策と機動的な財政政策、成長戦略を3本柱とするアベノミクスを推進し、20年9月発足の菅義偉政権でも留任した。日本銀行と13年1月に2%の物価安定目標の早期実現に向けた共同声明、20年5月には新型コロナウイルス感染症への対応で共同談話を公表し、黒田東彦総裁と連携してきた。

世銀・IMF年次総会に参加した麻生財務相(19年10月、ワシントン)Photographer: Al Drago/Bloomberg

  日銀の異次元緩和は政府の利払いコストと大規模な財政出動のハードルを引き下げた面もあるが、麻生氏は経済再生と財政健全化の両立を常に主張してきた。自国通貨建て国債はデフォルト(債務不履行)しないとする現代貨幣理論(MMT)については、「日本をMMTの実験場にするつもりはない」と放漫財政を戒めた。

  少子高齢化で増え続ける社会保障費を賄うため、在任中に消費税率を5%から10%へ2度引き上げ、年20兆円を超える最大の税収項目に育てた。それでも度重なる自然災害や消費増税、新型コロナへの対策に伴う財政出動の結果、債務残高が国内総生産(GDP)の2倍を超えるなど、財政は悪化の一途をたどった。

  08年9月のリーマンショック対策として、麻生政権が支給した定額給付金は3割しか消費に回らず批判を浴びた。その教訓を踏まえ、コロナ対策では一律給付に反対したが、与党の公明党の強い要請もあり、安倍前首相は一律10万円給付に踏み切った。13兆円近い資金が投入され、貯蓄率上昇と財政悪化に拍車をかけた。

  一方、麻生氏は国際金融分野で確かな足跡を残してきた。首相在任中の09年2月、国際通貨基金(IMF)への1000億ドル(約11兆円)規模の資金拠出を決定。経済のデジタル化に伴う国際課税ルールの見直しは、1世紀前に確立した原則を塗り替えるもので、13年5月の麻生氏の提案が契機となった。10月に20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれ、最終合意を目指している。

  首相や外相なども歴任し、豊富な経験や人脈を国際舞台でも生かしてきた麻生氏。退任すれば、国際社会における日本の存在感に影響が生じるととともに、各国をまとめる重要なリーダーを失うことになると懸念する声が財務省内から出ている。