全く予想していなかった意外な人物も、「差し替え」になった理由

歳川 隆雄、ジャーナリスト、「インサイドライン」編集長

岸田文雄前自民党政調会長は10月4日、衆院本会議の首班指名選挙で第100代内閣総理大臣に就任する。

これまでに明らかになった自民党役員と岸田内閣の主要閣僚人事を検証する。正直に言って、筆者が全く予想していなかった意外人事が幾つかあった。

最たるものは首相のサポート役である内閣官房長官である。筆者は9月29日の自民党総裁選2日前、同人事は萩生田光一文部科学相(58歳、衆院当選5回・細田派)と決め打ちで書いている。事実上、最大派閥・細田派(清話会)を率いる安倍晋三前首相の“秘蔵っ子”であるだけでなく、文教政策を始め主要政策に通じ、胆力に物を言わせた裏面での交渉力にも定評がある。photo by gettyimages

ものの見事に予想は外れた。細田派内には5回生の萩生田氏よりシニア(6~8回生)の面々が多く、特に同じ文教族で且つ同じ東京選出の下村博文前政調会長(67、8回)と今なお同派のオーナーである森喜朗元首相が強く反対したというのである。さすがの安倍氏も派内融和を優先して松野博一元文科相(59、7回)に差し替えたのだ。人事の遅れで岸田派内の不協和音説が流れたのは官房長官人事が理由だった。

もう一つ外したのが、麻生太郎副総理・財務相の自民党副総裁就任である。8年9カ月も財務相を続ける麻生氏への批判が少なくなかったが、麻生氏と茂木敏充外相は続投すると読んでいた。麻生氏の義弟である鈴木俊一財務相(68、9回・麻生派)の議員キャリアをチェックしても、同氏は自民党財務委員長、水産部会長、社会保障制度調査会長を歴任しているが、財政・金融政策に関わった経験は見当たらない。果たして適材適所の閣僚人事なのか、という疑問がある。

内実はどうだったのか

ところで、福田達夫総務会長(54、3回・細田派)は永田町に大きな衝撃を与えた。54歳とはいえ当選3回は自民党のシニオリティ・システム(当選回数至上主義)からすると、「若手議員」扱いであり、その意味で異例の大抜擢である。同氏が一躍クローズアップされたのは総裁選公示1週間前の9月10日だった。同氏を代表世話人とする派閥横断型の若手議員連盟「党風一新の会」が発足した。同会は総裁候補4人との意見交換会を主催する中で、党改革を前面に押し立てたことで好感を持たれた。

だが、その内実はどうだったのか。岸田総裁は最側近の木原誠二官房副長官(51、4回・旧大蔵省出身)以下、3回生5人の「岸田軍団」と呼ばれる優れた人材を擁している。古賀篤(49、旧大蔵省出身)、小林史明(38、元NTTドコモ)、岩田和親(48、元佐賀県議)、辻清人(42、元リクルート・米CSIS)、村井英樹(41、旧大蔵省出身)の各氏だ。

そして岸田氏は私立名門の開成高校OBであり、同校卒業生初の首相である。首相政務秘書官に就任した嶋田隆・元経済産業事務次官も同校卒業生である。次官経験者の首相秘書官(政務)は前例がない。

現在、自民党国会議員で同校卒業生は岸田氏を入れて9人いる。先述の「党風一新の会」メンバー70人の中には「岸田軍団」5人が、そして同校卒業生中の「若手議員」3人がそれぞれ名を連ねているのだ。

福田氏は、総裁選で河野太郎規制改革相(現党広報本部長)を担いだ小泉進次郎前環境相とかつて政治行動を共にして「同志」とされた。故にこの若手議員連盟は総裁選で「河野別動隊」になるのではないかと囁かれていた。だが、両氏の緊密な関係は終わっている。

その実態は明らかに違う。福田氏はほぼ間違いなく端から岸田氏支持であったと、筆者は判断している。「岸田軍団」全員がメンバーであり、3回生以下の開成高校卒業生も参加していた。福田氏は、父・福田康夫元首相と安倍氏の関係が微妙なことから、清和会の事実上のボスである安倍氏とは距離があるとされる。筆者は決して「謀略史観論者」ではないが、内実は“隠れ岸田支持”グループであったのではないか。

岸田氏は人の意見をよく聞くが判断が遅い、非自分ファースト故にオーラが無いが、良い人であるのは確かだ。個人的な体験からもそれは言える。

ただ、岸田氏が頭脳集団を側近グループにしていることは特筆に値する。学歴偏重ではないが、木原氏を含む6人の「チーム岸田」は3人が東京大学出身、残りの3人は京大経済部出身、九大法学部、上智大理工学部出身である。付言すれば、番頭格の根本匠、小野寺五典、山本幸三の3氏もまた東大OBである。皮肉なことに岸田氏は3回、東大に挑んだが全て失敗している。