岸田文雄政権で、自民党の甘利明幹事長に近い議員が党役員や閣僚に抜擢(ばってき)されている。甘利氏が打ち込んできた経済安全保障やデジタルといった重要政策で立案能力が高い若手の起用が目立つが、党内からは「甘利人事だ」との声も渦巻いている。(長嶋雅子)

「私の人事じゃありませんから」。甘利氏は8日、自身が代表の派閥横断の政策グループ「さいこう日本」(37人)の会合で党役員・閣僚人事に話題が及ぶと、こう謙遜した。

閣僚には麻生派(志公会)所属の甘利氏が推した同派の山際大志郎氏が経済再生担当相に、二階派(志帥会)の小林鷹之氏が経済安保担当相として入閣した。甘利氏が座長を務める党の経済安保戦略を議論する新国際秩序創造戦略本部で山際氏が幹事長、小林氏が事務局長を務めた。特に小林氏は政府への提言とりまとめに奔走するなど汗をかいてきた。

甘利氏は以前から若手の登用に積極的だった。甘利氏が座長を務め、9月に発足したデジタル庁創設に向けた議論を行った党デジタル社会推進本部は「甘利スクール」の様相だ。岸田派(宏池会)の小林史明氏が同本部事務総長から河野太郎前ワクチン担当相の補佐官に抜擢され、今回の人事ではデジタル副大臣に就任。牧島かれんデジタル相と小林鷹之氏も同本部で小委員長を務めた。

ただ、「行き過ぎた甘利氏主導」(閣僚経験者)の人事は波紋を広げた。6日の副大臣・政務官人事を控えた5日の記者会見で「小林経済安保担当相を支える副大臣に(党側の)チームのメンバーを充てたい」と述べた。

党内から「政府の人事に口を出すのか」と疑問視する声が出たが、結果的に「さいこう日本」のメンバーで甘利氏に近い大野敬太郎氏が就任。松野博一官房長官や梶山弘志幹事長代行らも「さいこう日本」に所属する。

甘利氏は最大勢力の細田派(清和政策研究会)に影響力のある安倍晋三元首相、麻生派会長の麻生太郎副総裁とのパイプが太く、それぞれの頭文字から「3A」といわれる。首相は党内基盤を盤石にするため甘利氏を幹事長に据えたが、甘利氏が突出すれば3Aのバランスにも影響しかねない。党幹部は「首相は頼りにしているが、甘利カラーが出すぎるのはよくないな」とクギを刺した。