岸田文雄首相が先の自民党総裁選で掲げた「健康危機管理庁」設置の見通しが不透明になってきた。感染症対策の司令塔と銘打つものの、具体像はほとんど明らかになっていない。既存の府省庁との役割分担など課題は多く、政府内では早くも「中長期的な課題と位置付けるべきだ」との声が出ている。

 「これまでの対応を分析し、司令塔機能などを抜本的に強化する」。首相は8日の所信表明演説でこう述べつつも「健康危機管理庁」設置には触れなかった。松野博一官房長官は12日の記者会見で改めて設置方針について問われ、「所信表明の中では明確に述べていない」とトーンダウンした。


 「健康危機管理庁」は総裁選での首相の目玉公約。今年に入り新型コロナウイルスの感染再拡大で自宅療養の患者が死亡する事例が続出。政府や自治体、医療機関の連携不足も要因との指摘が出ており、当初は担当閣僚が地方を含めた感染症対応を統括することをイメージしていた。


 ただ、設置に向けたハードルは低くない。病床確保や都道府県との調整、緊急時の行動制限の検討といった役割は各省庁にまたがる。今回の新型コロナ対応以外の業務も担っていることから、強引に統合すれば行政機能に支障が及ぶ可能性がある。一方で、「一から組織をつくるのは人材確保を含め非現実的」(政府関係者)だ。こうした事情を背景に、衆院選の自民党公約でも「健康危機管理庁」設置の明記は見送られた。


 今月以降、新型コロナ感染の減少傾向は顕著だが、冬場にかけて再拡大するとの懸念は根強い。内閣官房幹部は「当面は事前の病床確保などに努めて『第6波』に備える。組織論はじっくり検討した方がいい」と語った。