英グラスゴーで31日に開幕する国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、途上国支援のための気候変動対策資金が焦点の一つになる。
先進国全体で掲げていた目標の未達が濃厚で、途上国からの批判が予想されるが、今後の支援額を巡っては、先進国の間でも温度差がある。「勝った、負けた」のディールになりがちな外交の場で、いかに協力体制を築けるかが課題となる。
気候資金目標は、2009年にデンマークで開催されたCOP15での「コペンハーゲン合意」に盛り込まれた。途上国での再生可能エネルギーの普及拡大や、気候変動の悪影響を軽減するための取り組みを後押しする目的で、先進国から官民合わせて20年までに年間1000億ドル(約11兆4000億円)の資金を支援する目標を掲げていた。
だが、経済協力開発機構(OECD)のデータによると達成は困難とみられており、今回の会議で議論が紛糾する可能性がある。
20年のデータは来年まで公表されないものの、19年の実績は796億ドルだった。COP26のシャーマ議長の要請に基づいて、カナダとドイツが25日に公表した報告書でも、目標に届くのは23年との見通しが示された。
今回の会議では、目標に届かなかったことを踏まえた上で、25年までの資金支援やそれ以降の在り方も議論される。
年間1000億ドル目標は未達に
途上国向けの気候変動対策資金支援の実績
出所:OECD資料より
注:2015年の民間資金支援額はデータ不在 、2023年は見通し
ただ、先進国の間でも気候資金の扱いには温度差があり、過去には日英のさや当てもあった。
事情に詳しい複数の政府関係者によると、英国は6月の主要7カ国(G7)サミットで、気候資金の増額を首脳宣言に明記しようと各国に呼び掛けた際、それぞれの国が増額を約束するという意味で、主語を「Each country」とする案を提示したという。
しかし日本は、主語を「We」とする案で打ち返し、G7全体としては支援の強化を打ち出すものの、それぞれの国が縛られないような書きぶりに着地させた。
日本が増額に慎重なのは、すでに多額の貢献をしてきた実績があるからだ。外務省によると、日本は16年から20年まで毎年約1兆3000億円の支援を実施済みで、今後5年間も同水準の支援を継続すると表明している。この金額は「先進国の中でも最大規模」(同省資料)で、実際1000億ドルという目標と比べれば、日本だけで10%超を拠出している計算になる。
厳しい協議を覚悟
温室効果ガスの排出量シェアを拡大させている途上国での積極的な取り組みを支援しなければ、世界規模での排出削減は進まない。国連が25日に公表した報告書では、世界の気温は2100年までにセ氏2.7度上昇するとの見通しが示され、「可能なら気温上昇を1.5度に抑える」としたパリ協定の目標達成が危ぶまれる状況となっている。
国際会議の場では、G7の時の日本と英国のような交渉が行われ、合意形成に困難を伴う場合もある。議長国である英国のジョンソン首相は18日、ブルームバーグのインタビューに対して、COP26での協議が「非常に厳しい」ものになるとの認識を示している。
気候資金や気温上昇抑制の目標達成が見通せない中で、就任後初の外遊となる岸田文雄首相を含め多くの首脳級が対面で集まる今回のCOPでは、責任の追及や駆け引きのみに終始せず前向きな解を導けるかが問われそうだ。
08年から2年間、環境省の地球環境審議官を務めた東京大学未来ビジョン研究センターの竹本和彦特任教授は「気候資金目標が未達となる中でも、いかに途上国を巻き込んでコミットメントを打ち出せるかが重要で、日本も含めた先進国が果たすべき役割は大きい」と話している。
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